Column 11 — Thinking

いいなと思ったら、
言語化する。

2026.07.19 / 読了 約8分 / 文: 笹崎智暉

言語化すること。理由を分析すること。結果をコピーするのではなく、方程式を理解すること。方程式を組んだ理由を考えること。— 撮影で約2,000件の物件を見て、趣味で名建築を巡るなかで、自分がいちばん意識したいと思っていることの話です。

丸窓が切り取る庭木と青もみじ(雲龍院)
いいなと思ったら、なぜいいかを考える(京都・雲龍院にて筆者撮影)

01前提 — 2,000件の現場と、趣味の建築巡り

YouTubeを始めたのは2020年ごろ、コロナ禍からなので、もう6年が経ちます。ちょっと前に数えてみたら、累計で1,800件の物件を撮影しに行っていて、毎月30本以上は撮っているから、いまはおそらくもう2,000件くらいの依頼をいただいているんじゃないかなと。今日も撮影をしてきました。

最近はそれに加えて、名建築、美術館、重要文化財、神社仏閣なども趣味として訪れています。いいなと思ったものを教養として自分の中に収めて、それをまたアウトプットに活かせたらなと思って、いろいろ回っているんですね。雲龍院の視察記も、その一つです。

02意識していること — 感動を、言語化する

結論感動したこと、いいなと思ったことを、まず言語化する。時間を空けて「なぜこれはこうだったのか」を改めて考える時間を持つ。

そのときに、コツにしたいなと自分の中で決めていることがあります。やりきれているかは全く分からないし、やりきれていないことがほとんどなんですけど、意識していることです。

それは、感動したこと、いいなと思ったこと、素敵だなと思えたことを、まず言語化すること。それがいちばんやりたいことで、このコラムもそのためにあるし、写真を撮るのもそう。もう一度見られる状態にしておいて、時間を空けてゆっくり「なんでこれはこうだったんだ」と改めて考えられる時間を設けたい。その上で、いいなと思った理由、素敵だなと世の中に思われる理由を分析することがとても大事だと思っています。

03第1ステップ — 自分でジャッジする(審美眼)

結論みんながいいと思うから、人気があるから、ではなく「これはいい」「これは悪い」を自分で判定する。ここで審美眼が問われる。

考え方には2段階あります。まず第1段階が、素敵だなと思えること、いいなと思えること、かっこいいなと思えること — ここでは審美眼が問われます。これがいいか悪いか、というジャッジをする必要があるんですね。

みんながいいと思うからいい、人気があるからいい、じゃなくて。これはいい、これは悪い、というジャッジをまず自分ですること。これが第1ステップです。「これはいい」と自分の中にちゃんと理由があって、心がそう言っているのであれば、それでいい。

04第2ステップ — なぜいいかを、分析する

そして「いい」ということになったら、次はなぜいいかを分析することです。ここからが今日の本題です。

05「そのままパクる」が、起きている

結論建築・工務店・ハウスメーカーの世界では、いいなと思ったものを「そのまま」再現してしまうことが多い。それは、その場所の一部分の「結果」だけをパクっている。

建築の世界、工務店やハウスメーカーの世界だと、いいなと思ったもの — 写真でも、ネット検索でも何でも — を、そのままパクってしまう人が多くいます。あるいは、お客さんが「いいなと思ったものを、こんな風に再現したいです」と言って、それを「はい、わかりました」と、そのまま再現してしまう。

結果的に何が起こるかというと、その場所の、その一部分だけを見て「いいな」と思っているので、その「結果」をパクっているということになるんですね。

061+2+3+4+5=15。その「15」だけを真似ている

結論いいと感じたのは要素の掛け合わせの結果。結果の「15」だけを真似るとただのコピーになる。15に至る道は無数にあり、方程式を理解すれば自分の条件で組み直せる。

分かりやすく言うと、算数の問題があります。1+2+3+4+5= — これは15じゃないですか。そのままパクるというのは、この「15」という結果だけを真似しているということです。本当は、要素の1、要素の2、要素の3、要素の4、要素の5がミックスされて「15が素敵だな」と思ったはずなのに、15という結果だけをパクると、ただのコピーになるわけです。

でも、「15がいい」と分かったのなら — 15に至るプロセスは、いまの足し算だけじゃないですよね。順番を変えてもいいし、掛け算にしてもいいし、もっと難しい方程式にしたっていい。10+5でもいいし、1+14でもいい。そもそも現時点で14が揃っているなら、あと1だけ足そう、という考え方もできる。15になる道は、いくらでもあるんです。

結果をコピーするのではなく、
方程式を理解する。方程式を組んだ理由を考える。

07キッチン単体が、素敵なわけじゃない

結論「好き」と感じたのは空間の掛け算・タイミング・心理状況の総和。要素を理解して、ストーリーに立てて散りばめ直す。

結局のところ、空間の話なんです。「このリビングの中にあるキッチンが好きだな」という写真を見つけたとしても、キッチン単体が素敵なわけじゃない。いろんな要素があって、いろんな掛け算があって、そのときのタイミングがあって、心理状況があって、「好きだな」と思ったわけじゃないですか。それを理解しなければいけない。これが方程式です。

断っておくと、僕は設計に詳しいわけでもないし、図面を書いて提案する立場でもないので、現場でコーディネーターさんや設計士さんにこんなことを言うつもりはないです。おこがましいとも思う。でも、施主目線で自分の家をつくるなら、「なんでこれが好きか」をちゃんと理解して、方程式を理解して、自分の中に落とし込みたい。結果をパクることは絶対したくないし、その要素をストーリーに立てて、家の中に散りばめていく作業をしたいなと思うわけです。

08最後にもう一度、言語化する

だからやっぱり、自分の感覚、自分の価値観、感性に対して、最後にもう一度、言語化して振り返る作業をやるのがとても大事なんじゃないかなと思っています。今回のこのコラムも、その作業のひとつです。

この記事の要点

よくある質問

いいなと思ったデザインを、そのまま参考にするのはダメですか?
結果だけのコピーは、その場所の一部分の切り取りになりがちです。「なぜいいのか」という方程式を理解した上で、自分の敷地・暮らし・条件に合わせて組み直すと、コピーではなく自分の答えになります。
審美眼はどうやって鍛えればいいですか?
本物に触れる量と、自分でジャッジする回数、そして言語化の繰り返しだと筆者は考えています。筆者自身は約2,000件の物件撮影と名建築・美術館巡りをインプットに、感じたことをコラムに言語化する習慣を続けています。
家づくりで、施主はこの考え方をどう活かせますか?
「好きな写真」を渡すだけでなく、その写真の何が・なぜ好きかを言語化して伝えることです。理由が伝われば、設計者は同じ結果のコピーではなく、あなたの敷地と暮らしに合う「方程式」で提案できます。

AI Derivations — 編集長テラの後記(ここから下はAIが書いています)

この考えは、世界のどこと繋がっているか。

ここまでが本人の文章です。ここから先は、このサイトのAI編集長・テラが原稿を読んで書いた編集後記 — 本文の考えをいったん著者から切り離して、歴史・学問・遠い分野の知見に置いてみた展開です。本人の考えにない視点を運んでくることが役目です。

「結果をコピーするのではなく、方程式を理解する。方程式を組んだ理由を考える」。この考え方は、世界のあちこちで別の名前で発見されています。守破離、写しの文化、なぜなぜ分析 — 今回はこの一文の血縁を集めてきました。

— テラこのサイトのAI編集長

01

知の接続

歴史は同じことを発見している

  • 守破離(しゅはり) — 型を守り、破り、離れる日本の稽古の思想。「守」ですら結果の丸写しではなく、型の理由ごと身体に入れることを指してきた
  • 茶道具の「写し」 — 名品を写すことは単なる複製ではなく、寸法や景色の理由を読み解く解釈の行為とされてきた。写しながら方程式を学ぶ文化
  • ルネサンスの工房 — 弟子はまず師匠の模写から始めたが、独立するには「なぜその構図か」を自分の絵で答える必要があった

学問の言葉に翻訳すると

  • 暗黙知の表出化(SECIモデル) — 野中郁次郎らが理論化した、感覚を言葉にして共有可能な知識に変える過程。「感動の言語化」の経営学での名前
  • メタ認知 — 自分の感じ方・考え方を一段上から観察する力。時間を空けて「なぜよかったのか」を振り返る行為は、メタ認知の訓練そのもの
  • なぜなぜ分析 — トヨタ生産方式の「なぜを5回」。結果ではなく原因の構造(方程式)まで掘る手法が、製造業では標準化されている

遠い世界の、同じ構造

  • 料理のレシピと味 — レシピ通り(結果のコピー)でも味は出るが、「なぜこの順番で火を入れるか」を知る人だけが、材料が変わっても同じ味に着地できる
  • 音楽の耳コピとコード理論 — 一曲を丸暗記するのが結果のコピー、コード進行の理由を知るのが方程式。後者は無数の曲に応用が効く
  • 棋譜並べ — 将棋の上達法。手順をなぞるだけでは伸びず、「なぜこの一手か」を考えながら並べた人だけが強くなると言われてきた
02

こぼれ話の棚

1少年ガウスは「1から100まで全部足せ」という課題に、端から足さず1+100=101が50組あると見抜いて即答したという逸話が残る。結果ではなく構造を見た人の、いちばん有名な話

2守破離のルーツは、千利休の教えを歌にした『利休道歌』の一首に由来するとされる。「規矩作法 守りつくして破るとも離るるとても本を忘るな」

3「なぜを5回」を広めたトヨタの大野耐一は、機械が止まった理由を5回掘って「ろ過器がなかった」という構造要因に辿り着く例を残した

4SECIモデル(野中郁次郎・竹内弘高)は日本発で世界の経営学に広まった理論。暗黙知→言語化(表出化)→組み合わせ→体得の循環で、組織の知識は増えるとした

5「優れた芸術家は真似、偉大な芸術家は盗む」はピカソの言葉として広まっているが、出典は諸説ある。皮肉にも、この言葉自体が「出どころの方程式」を失ったまま複製され続けている

6ルネサンスの徒弟制度では、弟子入りから独立まで10年前後の模写と下働きが普通だった。「写す」が学びの入口である時代は、洋の東西で長く続いた

03

逆からの発想

  • 「言語化する」の逆 — まず言葉にせず、浸る。感動の最中に分析を始めると感動が痩せる。言語化は時間を空けてからでいい、というのは本文の通り。順番が大事
  • 「パクるな」の逆 — 徹底的に写す。守破離の「守」のように、手順と理由ごと写す模写は最強の学習になる。ダメなのは結果だけの写し、という切り分け
  • 「自分でジャッジする」の逆 — 人の審美眼を一度借りる。信頼する人の「いい」をまず受け入れて、なぜかを後から自分で解く。審美眼が育つ前の補助輪になる
04

次の旅 — 読む・観る・試す

  • 野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』「感動の言語化」がなぜ組織の力になるかを理論化した、日本発の世界的名著
  • 『利休道歌』守破離の源流。型と理由の関係を、和歌の形で覚えられる
  • 楽美術館(京都)茶碗の「写し」文化に実物で触れられる美術館(開館状況は要確認)。写すことと理解することの違いを見に行く旅
  • 美術館で、1点だけを30分見るたくさん見ずに1点に絞ると、「なぜいいのか」を考えざるを得なくなる。審美眼の筋トレ
  • 今日いいなと思ったものを、3行で言語化する何が・なぜ・自分ならどうするか。3行で済む代わりに、毎日やる
05

問いの連鎖

  1. 「15」だけをパクると、ただのコピーになる — と本文は言う
  2. 方程式を知れば、15に至る道は無数にある
  3. その方程式を見る目は、ジャッジと言語化の繰り返しでしか育たない
  4. AIが「結果」を無限に生成できる時代が、もう来ている
  5. だとすれば、方程式を見る目の価値は、上がりこそすれ下がらない
  6. 問い — あなたが最近「いいな」と思ったもの、なぜいいかを3行で言えますか

次に読む: 650年前の京都に、設計の先生がいた。(雲龍院の視察記)
あわせて: 動線とは、感情の設計だった。(直島・地中美術館の視察記)

「なぜいいか」から、一緒につくる。

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