05 / JOURNEY
Hamamatsu, Shizuoka
浜松
光の旅
2026.07 / 天竜二俣
浜松の山あい、天竜二俣。坂道を登った先に、藤森照信さん設計の秋野不矩美術館があります。展示室で「なんて気持ちいい自然光なんだ」と思ったら — 自然光じゃ、なかった。その話の旅です。
Route — 旅の道順
天竜二俣まで、車でふらっと
- 天竜二俣
- 参道の坂
- 秋野不矩美術館
- 裸足の展示室
坂を登ると、藁の壁が待っている
Akino Fuku Museum
駐車場から美術館までは、木立の参道をゆっくり登ります。着いた先にあるのは、藁を混ぜた白い壁と手刻みの屋根。建物というより、地面から生えてきたなにか。藤森建築の入口としても最高の一棟だと思います。
浜松駅から車で40分。正直、遠い。でも外観をひとことで言うと、ジブリの世界観なんです。山の中に「ハウルの動く城」のような建物がぽつんとある、あの感じ。屋根は諏訪産の鉄平石、壁はワラと土を混ぜた着色モルタルと天竜杉。藤森照信さんにとって初めての公共建築で、建物が地面から生えてきたような佇まいでした。



靴を脱ぐと、光の見え方が変わる
Barefoot Gallery
展示室は靴を脱いで、素足で上がります。床は籐ござと大理石。そして頭上からやわらかい光が降っていて、てっきりトップライトの自然光だと思っていたら、あれは蛍光灯でした。乳白のスクリーンを一枚かませて、光を「にじませて」いる。自然光に見せる照明設計です。


光源を見せず、一度素材に通してから届ける。住宅の間接照明と同じ原理を、美術館スケールで、しかも「自然光と勘違いさせる」レベルでやっている。照明は器具選びではなく「光の通り道の設計」だと教わりました。
メインホール —
天窓だと思ったら、壁の窓だった
Main Hall
ルーバーの光には、もうひとつ仕掛けがあります。ゴザの空間のまわりに木の縁が回っていて、その先の展示側は異素材の床で足を踏み入れられない。つまり、ルーバーの中を覗き込める距離まで、そもそも近づけない。頑張って覗かない限り、蛍光灯だとは分からない設計になっているんです。
そしてメインホール。天井に大きく四角い開口が抜けていて、そこから天空光が降り注ぐ。その場所だけがスポットライトのように明るくて、白い壁に光が拡散して、展示がふわっと光っている。てっきり開口の上に天窓があるんだと思ったら — 天窓じゃなくて、開口の上部に普通の壁付け窓が2面付いているだけでした。二段構えの種明かし。完敗です。
壁は自然素材の入った塗り壁で、白い空間なのに、静寂で落ち着く。窓のない閉ざされた空間なのに、開放感と落ち着きが同時にある。光の質は、壁の質で決まる。雲龍院で見た「暗い部屋から明るい庭を見る」設計と同じことが、現代の美術館でも起きていました。
訪問時は彫刻家・中谷ミチコさんの企画展「影とぽっこり」をやっていて、これがまた良かった。あの天空光の下に、影で輪郭が浮かび上がる彫刻が置かれている。時間帯で変わる光と、影そのものを主役にした作品。空間と展示がここまで噛み合っている企画は、なかなか見られません。
この窓の取り方は、
家に翻訳できる
Bring It Home
このやり方、家でもできると思ったんです。2階建ての家の真ん中に開口を抜いて、開口上部の壁に窓を付けて、リビングに天空光を落として拡散させる。天窓じゃないから雨漏りのリスクを避けられて、直射じゃないから家具も日焼けしにくい。時間帯と天気で、家の真ん中の「顔」が毎日変わる。そんな家、見てみたいなと思いました。
光は本物かどうかより、どう感じるか。光源を隠すには視線だけでなく「近づける距離」も設計する。時間で顔が変わることは弱点ではなく魅力。窓のない場所で自然を感じさせるって、こういうことなんだと。自邸にも、これから提案する家にも、持ち帰れる話がいくつもありました。
- 秋野不矩美術館
- 日本画家・秋野不矩の作品を収蔵する浜松市立の美術館。1998年開館、藤森照信+内田祥士設計
- 体験
- 展示室は靴を脱いで鑑賞。素足に床の温度が伝わるのも設計のうち
- 時間
- 9:30〜17:00(入館16:30まで) ※2026年8月時点
- 休み
- 月曜(祝日は開館、翌日休)。展覧会の会期外は閉館なので、行く前に必ず会期を確認
- 料金
- 所蔵品展は大人310円。特別展は展覧会ごとに設定。中学生以下・70歳以上は無料
- 行き方
- 浜松駅から車で約40分(天竜二俣)。山の上なので車が便利です
Afterword — 旅の、あとがき
「気持ちいい」には、必ず種明かしがある。
自然光に見えた蛍光灯のように、心地よさは偶然ではなく設計です。住宅の照明計画も、撮影のライティングも、この種明かしの目で組んでいます。