06 / JOURNEY

Shonai, Yamagata

山形

田んぼの旅

  • スイデンテラス
  • 坂茂
  • 庄内平野
  • 西日

2026.07 / 鶴岡

庄内平野の田んぼの真ん中に、坂茂さん設計の木造ホテル「スイデンテラス」が浮かんでいます。泊まって分かったのは、みんなが嫌う西日を、ここは主役にしているということでした。

Route — 旅の道順

泊まらないと分からない宿

  1. 庄内
  2. スイデンテラス
  3. 水盤のテラス
  4. 夕方の西日
  5. 朝の田んぼ
01ホテル

田んぼの上に、浮かぶ

Suiden Terrasse

スイデンテラスの「スイデン」は水田。建物は田んぼと水盤の上に低く長く伸びていて、風景を切らずに、風景の一部になっている。木の梁が連続するロビーは、坂茂建築の気持ちよさがいちばん分かる場所です。

庄内空港からバスで20分、「サイエンスパーク」というバス停で降りると目の前。着いて衝撃だったのは、建物の四方が、全部田んぼだということ。それ以外に何もない。2階の大開口から覗くと、足元まで100%田んぼで、空中に浮かんでいるような感覚になります。天井の木の梁は、そのまま外のテラスまで続いていく。

スイデンテラス 水田に浮かぶ外観
02夕方

西日が、主役になる時間

Golden Hour

夕方、館内が金色になります。普通の住宅設計なら「西日はカットしましょう」と言うところを、ここは庄内平野に沈む夕日を正面から受ける。田んぼの水面が光って、建物の中まで夕焼けが届く。西日を悪者にしない設計を、初めて見ました。

西日って、帰り道の夕日みたいに、寂しさとほっこりが同居した哀愁のある光じゃないですか。ここは西日に向かって大屋根のテラスがずっと伸びていて、そこに出ると夕日が田園に落ちる瞬間まで見届けられる。テラスに出なくても、ロビーの本棚の列にまで赤い光が差し込んでくる。「西日が暑いなら入れない。でも外に出たときの夕日をどう感じるかは、設計でコントロールできる」— いちばんの持ち帰りでした。

スイデンテラス 夕方の光
建築の目線

「西日=遮るもの」は思考停止でした。時間帯という条件を敵にするか主役にするかは設計次第。住宅でも、その土地でいちばん美しい時間を1つ決めて、そこに開口を捧げる — スイデンテラス以来、そう考えるようになりました。

03考えたこと

季節ごとに、まったく違う建物になる

Four Seasons

僕が行った夏は、青々としたお米の緑一色。調べると、秋口は稲穂で一面の黄金色になり、収穫が終わって水田だけになると、今度は建物が水鏡に映って「水田に浮かぶ」姿になるそうです。ウユニ塩湖みたいな雰囲気。そして雪の庄内へ。同じ建物が、季節で4回姿を変える。田んぼに建てたからこそのご褒美です。

そして館内のあちこちに「ここに立ってね」が用意されている。窓のフィックスの位置、テラスの先端、本棚の間。いちばん美しく見える立ち位置が、先回りして設計されているんです。住宅の内覧でも、YouTubeのルームツアーでも、これは同じ。見る人をどこに立たせるかまでが設計です。

額縁みたいな開口がいくつも重なる廊下、突き当たりの窓に水田、切妻の木架構の見上げ。歩いていると「ここからがフォトスポットだよ」というガイドが随所にあって、そこから見る景色はやっぱり最高でした。狙ってるな、と。

ちなみにここ、宿泊者じゃなくてもロビーやショップに入れます。庄内に行くことがあれば、お茶だけでも。夕方から翌朝までいられるなら、それがいちばんですが。

実はここ、宿泊代が意外と安くて、1万円くらいでも泊まれます。ラウンジで仕事をしてもいいし、本を読みに来てもいい。フィットネスもコインランドリーもあるので、ワーケーションで1ヶ月いたら、すごい発想が生まれそうな場所です。露天風呂も完全に水田ビューでした。

スイデンテラス
2018年開業。坂茂設計の木造2階建てホテル。田んぼに囲まれ、外周に水盤が回ります
楽しみ方
夕方から翌朝までいてこそ。時間で表情が変わるホテルです
行き方
庄内空港から羽田便に合わせたバスで約20分、「サイエンスパーク」下車すぐ。鶴岡駅からも車で約10分
料金感
時期によりますが1万円前後から泊まれる日も。長期のワーケーション利用も多いそうです
予約・公式
suiden-terrasse.com。宿泊しなくてもレストラン・ラウンジは利用できます
04考えたこと

なぜ、この町に
これが建ったのか

Shonai Story

庄内はもともと観光資源が多い町ではなくて、過疎化も進んでいたそうです。そこにまず、慶應義塾大学の先端生命科学研究所を核とした「鶴岡サイエンスパーク」の誘致があった。その横に、海外の研究者やメディアを泊められる宿を建てよう — それがスイデンテラスです。順番が面白い。先に頭脳を呼んで、あとから泊まる場所を作った。

立ち上げたヤマガタデザインの山中大介さんも慶應の出身で、三井不動産からこの町に移住して、資本金10万円で創業したそうです。大学とのつながりが制度だけじゃなく、人の側にも続いている。誘致から雇用が生まれて、Uターンが生まれて、ビジネスが広がっていく。僕が行った日も、海外の報道や省庁の方が来ていました。地方創生のアプローチとして、建築が真ん中にいる。とても勉強になりました。

そして、田んぼの中に建てる難しさも面白かった。農地に建てるには農地転用の許可が要って、ここは一旦宅地に変更してから建てたそうです。じゃあ普通の家でどう翻訳するか — 田園の立地なら、2階リビングにして四方に開口を持たせる。それだけで「田んぼに囲まれる」感覚は作れる。それが僕の持ち帰りでした。

近くには1日遊べるキッズドームソライ、クラゲ展示世界一の加茂水族館(約100種、直径5mの水槽に1万匹のミズクラゲ!)もあります。家族でも、ひとりでも。庄内、おすすめです。

Afterword — 旅の、あとがき

その土地の、いちばん美しい時間に開口を捧げる。

庄内の西日も、田んぼの朝も、泊まったから言語化できました。土地読みと開口計画の目線は、そのまま住宅の提案に使っています。

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