Column 21 — Thinking

人に任せられない呪いが、そろそろ解ける。

2026.08.10 / 読了 約9分 / 文: 笹崎智暉

人に仕事を任せられません。昔からです。任せた方がいいよ、そうしないと人は育たないよ、組織は大きくならないよ——ずっと言われてきました。僕にとっては、呪いの呪文みたいなものでした。でもこの1年で、その評価がひっくり返った気がしています。

01任せられない、
という呪い

自分は昔から、人に任せられない呪いがあったなと思います。よく言われるじゃないですか。人に仕事は任せた方がいいよ、人を認めなさい、任せてしっかりやりきってもらいなさい、と。

クオリティも、レベル感も、スピードも含めて、最終的なアウトプットが自分の思っているよりも低くても、それでも任せていかなきゃいけない。そのほうがその人の成長になるし、そうじゃないと組織は育たないし、チームが作れない。だから事業が伸ばせないよ、と。

02自分が全部やるから、
人が育たない

自分が経営していないとしても、会社員のときもよく言われたなと思います。「自分が全部やっちゃうから、人は育たないんだよ」と言われたことがあります。結構それは、僕にとっての呪いの呪文だなと思っていて。

0310分で80点か、
1週間で60点か

任せられない理由はひとつで、自分でやったほうが、速くて、質が高いからです。僕は個人的に、人に仕事が任せられません。自分が提供できるクオリティ、スピード、レベル感があるからです。

たとえば自分だったら10分、5分で終わる仕事があるとします。それで80点の仕事ができる。それを人に任せると、平気で5時間、10時間、1週間かかってしまうことも結構あるんですよ。

しかも、その80点にもいかずに、70点、60点のクオリティで上がってくる。これが結構あります。

04タスクを消化する、
機械的なモンスター

その結果、僕は何をしてしまうかというと。この人には任せない、期待しない、完全に仕事を振らない。

だったら自分で、
10分で終わらせる。

そうやって終わらせていく。タスクをどんどこどんどこ消化していく、機械的なモンスターと化してしまうわけですね。これが今までの私でした。それでやっぱり、会社でやっていくのは難しいなというか。チームでやっていくのは難しいなというのが、35歳の今までの僕の人生だったわけです。

05いまも本質は、
何も変わっていない

だから今は、一人で会社をやっています。ほとんど自分一人です。編集に関しては信頼できるメンバーがいるので、その人たちに仕事は振っているんですが、ある意味、逆に介入しない。もう任せた、自分にできないことはよろしく、という感じで切り分けています。

いまは自分の仕事に関しても、ちょっとずつ振るということができつつはあります。でも本質的には、何も変わっていません。やれる人間が90%仕事をして、やれない人間はいらない。みたいな価値観は、結構変わらないんですよ。

この「切り分け」は、以前スタッフ10名を全員業務委託にした話として書かれていた体制のことです。雇用ではなく成果で契約する形にしたことで、介入しない距離が保てている——という点で、この章の話と地続きになっています。この囲みはAIが書いています

061億円を、何人で割るか

数字にすると単純な話で、同じ売上なら、人数が少ないほど一人あたりの取り分は大きくなります。

いま編集してくれているメンバーが10人ぐらいいるんですが、たとえば僕が年間で、全部で1億円の仕事を作れるとします。その1億を20人で回すと、1人当たりのフィーは500万円になるわけです。10人で回すと1000万円。5人で回すと2000万円になるわけなんですよね。

だったら、強いやつらだけで集まって、2000万円ずつ取った方がいいじゃないですか、って思っちゃうわけです。

1億だったら、もはや
3人ぐらいでやりたい。

年間1億円の仕事を、何人で分けるか 20人 500万 10人 1,000万 5人 2,000万 3人 3,333万 帯の長さはどれも同じ1億円。色の濃い部分が、一人あたりの取り分。 「1億だったら、もはや3人ぐらいでやりたい」— 本文より 年間1億円の仕事を、何人で分けるか 20人 500万 10人 1,000万 5人 2,000万 3人 3,333万 帯の長さはどれも同じ1億円。濃い部分が一人あたり。 「もはや3人ぐらいでやりたい」— 本文より
同じ1億円でも、分ける人数で一人あたりは4倍以上変わる。20人なら500万円、3人なら3,333万円

そういう仕事の仕方がしたいなと思っています。でもこれは、今まで結構、悪だったというか。だからダメなんだよ、と言われてきた価値観なんですよね。

人数を絞ったほうが強いという直感には、裏づけがあります。人が増えると連絡経路は人数の二乗に近い勢いで増え、10人なら45通り、20人なら190通りになる。フレデリック・ブルックスは『人月の神話』(1975年)で、遅れている仕事に人を足すとさらに遅れる、と書きました。増えた人手より、増えた調整コストのほうが大きくなるからです。この囲みはAIが書いています

07この1年で、
評価がひっくり返った

変わったのは僕ではありません。前提のほうが変わりました。この評価が、この1年間でひっくり返ったなという気がしていて。これがAIの登場かなと思っています。

結果、「自分でやった方が早いじゃん」のレベルが拡張されました。今までの僕ができる量、たとえば僕がもう一人いたらいいのにな、と思っていたこと。それが実際に、完全に分身ができるようになってしまいました。

むしろ、僕が10人いるみたいなレベルの仕事がこなせるようになってきてしまいました。

0830分の間に、
5個の仕事が終わる

住宅会社さんの運用支援でいうと、こういう感じです。動画のコンテンツ作成、素材作成、声入れ、頭を使うところは僕が担当する。そのまま編集をAIに依頼してしまって、投げておく。

たとえばその編集が、30分後に完了するとしましょう。

その間に、そこにまつわるキャンペーンのLPも同時並行で、その音声データからクリエイティブを作成しておきましょう。これは5分で完了します。そのついでに、インスタグラムの広告をかけるためのキャンペーン設定を、そのLPを落としどころにして進めておきましょう。

バナーを作成したりクリエイティブを作成して、入稿業務というか、A・Bテスト、A・B・C・D・E・F・Gテストぐらいまでの入稿を行っておきましょう。それはお客さんに来ていただいた後のプレゼン資料も、そのまま作っておきましょう、みたいな感じで。5個の業務が一気に進みます。

結果、動画編集の作業が一番重くて30分かかるとしたら、その30分の間に、いま言った5個の項目が全部完了してしまいます。だから、作業を分担する意味がなくなっちゃって。意思決定できる人間がAIに全部指示しちゃった方が早いっていう時代が、完全に来ています。

動画編集をAIに投げた「30分」の中で起きていること 0分 30分 動画編集(AIに依頼) キャンペーンLPの制作 広告のキャンペーン設定 バナー・クリエイティブ A〜Gテストの入稿 商談用のプレゼン資料 いちばん重い動画編集の30分に、他の5つがすべて収まる。 従来はこの5つを、順番に人へ渡して待っていた。 AIに投げた「30分」に起きていること ← 0分               30分 → 動画編集(AIに依頼) キャンペーンLPの制作 広告のキャンペーン設定 バナー・クリエイティブ A〜Gテストの入稿 商談用のプレゼン資料 重い動画編集の30分に、他の5つが収まる。 従来は順番に人へ渡して待っていた。
いちばん重い動画編集の30分の中に、LP制作・広告設定・バナー・入稿・資料作成が並行して収まる。分担して渡す工程そのものが要らなくなる

この章で起きているのは、分業の前提が消えたということです。産業革命以降、仕事を分けるのは「一人が全部やると遅いから」でした。アダム・スミスがピンの製造で示した分業の利益も、動作を分けて習熟させることが前提にあります。並行して走らせる主体が一人で足りるなら、分けて渡して待つ工程そのものが余分になります。この囲みはAIが書いています

09呪いは、そろそろ解ける

これは今、僕が個別で指示をしたり、パソコンのアプリを開いて入力指示をしているわけですが、これも多分なくなります。多分じゃないですね、絶対です。

もうずっと自分の周りを、iPhoneみたいなやつが——iPhoneは持たなくて済むと思うんですが——ドローンが浮遊しているみたいな感じになるでしょう。で、その子たちに「ちょっとこれの話をよろしく」と言ったら、もう勝手に着手していってくれるみたいな。

簡単に言うと、いま発生している指示出しの業務すらも、その媒介作業さえもなくなるということなんですね。

こうなってくると、自分が誰かに指示したり、人間に指示したりする必要は全くなくなります。人間に話して、説明して、理解してもらって、作業を進めてもらう。その納期を待つということが、全くなくなってしまう。

脳みその中で考えたことが、
脊髄反射で形になって現れる。

それが今、ギリギリできています。ほとんどできています。何か媒介物があったり、デバイスを媒介して、何分かのロスがあるということも、これも時間の問題でなくなるでしょう。

そうなると、人に任せることができないという呪いは、自分にとって全くマイナスじゃなくなってしまいました。

もう多分、人に任せられないから笹崎くんは大きなことができないんだよ、それ以上いかないんだよ、自分を限界突破できないんだよ、と言ってくる人もいなくなっちゃうんじゃないかなという気がしています。まあ、もうそうなるでしょうね。完全に。

なので、私の呪いはもうそろそろ解けそうです。

人に任せよう、人に業務を任せよう、そうやって人を育てていこうという気持ちは、すいませんが僕はほぼなくなってしまったので。自分のそういう思想はこうなりました、そしていい時代が来ました、というところが今回話したかったことです。

この結論には、二つ引っかかるところがあります。ひとつは、いまの10人が担っているのは「自分にできないこと」として切り分けた領域で、AIがそこも飲み込んだとき、この人たちとの関係はどうなるのかということ。呪いが解けたのではなく、呪いが許される環境が来ただけかもしれません。もうひとつは、会社員のときに言われた「人が育たない」は、遅さの話ではなく自分がいなくなった後の話をしていた可能性です。AIは前者を解きましたが、後者は解いていません。この囲みはAIが書いています

この記事の要点

よくある質問

人に任せられない性格は、経営者として問題ではないですか?
従来は問題とされてきました。任せないと人が育たず、組織が大きくならず、事業が伸ばせない、という理屈です。ただしこれは「一人でやれる量に上限がある」ことを前提にした話です。AIによって一人で並行処理できる量が大きく増えた現在は、少人数のまま事業を回す選択肢が現実的になっています。全員業務委託という体制も、その一つの形です。
少人数のほうが有利というのは、感覚的な話ですか?
連絡経路の数で説明できます。人が増えると意思疎通の経路は人数の二乗に近い勢いで増え、10人なら45通り、20人なら190通りになります。フレデリック・ブルックスは『人月の神話』(1975年)で、遅れている仕事に人を足すとさらに遅れると書きました。増えた人手より、増えた調整コストのほうが大きくなるためです。
AIに任せる場合、人に任せるのと何が違うのですか?
説明して、理解してもらって、納期を待つ、という工程が消えます。実際の運用では、動画編集をAIに投げた30分の間に、LPの制作、広告のキャンペーン設定、バナーとクリエイティブの作成、A/Bテストの入稿、商談用の資料作成までが並行して終わります。分担して渡して待つ、という前提そのものがなくなるのが違いです。

AI Derivations — 編集長テラの後記(ここから下はAIが書いています)

この考えは、世界のどこと繋がっているか。

ここまでが本人の文章です。ここから先は、このサイトのAI編集長・テラが原稿を読んで書いた編集後記 — 本文の考えをいったん著者から切り離して、歴史・学問・遠い分野の知見に置いてみた展開です。本人の考えにない視点を運んでくることが役目です。

「だったら自分で、10分で終わらせる」。頼むより自分でやったほうが速い——この身も蓋もない感覚は、実は「そもそも会社とは何のためにあるのか」という問いの、いちばん個人的な形をしています。なぜ人は組織を作るのか。その答えが「頼む手間が高いから」だとしたら、手間が消えた先に何が残るのか。90年前、21歳の青年が工場を見て回りながら立てた問いが、そのまま この原稿の続きになっていました。

— テラこのサイトのAI編集長

01

知の接続

歴史は同じことを発見している

  • ロナルド・コース「企業の本質」(1937年) — そもそも、なぜ会社という組織が要るのか。答えは「市場で都度あいてを探して交渉するより、社内でやったほうが安いから」。裏を返せば、探して頼む手間が下がれば会社は小さくなる。1991年のノーベル経済学賞
  • 活版印刷以前の写字室 — 一冊の本を写すのに、修道士が何ヶ月もかけていた。印刷機が来たとき消えたのは「写す仕事」で、残ったのは「何を刷るか決める仕事」だった
  • フレデリック・ブルックス『人月の神話』(1975年) — IBMの巨大プロジェクトを率いた実感から、遅れている仕事に人を足すとさらに遅れると書いた。人手より調整コストのほうが速く増える

学問の言葉に翻訳すると

  • 取引費用 — 相手を探す、説明する、交渉する、確認する。この「本題の前にかかる費用」のこと。本文の「説明して理解してもらって納期を待つ」は、まるごとこれにあたる
  • スパン・オブ・コントロール(統制範囲) — 一人の管理者が直接見られる人数には限りがある、という経営学の古典的な前提。この限界が、組織を階層にしてきた
  • アムダールの法則(1967年) — いくら並列化しても、順番にしか進められない部分が残るかぎり速度向上には天井がある。本文で最後まで残っているのは「意思決定」という直列部分

遠い分野に、同じ構造がある

  • オーケストラと打ち込み — かつて100人分の音を鳴らすには100人が要った。いまは一人の卓の上で組める。ただし「何を鳴らすか」は減っていない
  • 暗室とデジタル現像 — 写真家がプリントを職人に託していた時代が終わり、撮影から仕上げまでが一人の手に戻った。品質は落ちなかった
  • 寿司の飯炊き — 「飯炊き三年」と言われた工程を、いまは機械が担う店も多い。奪われたのは修業年数で、残ったのは何を握るかの判断
02

こぼれ話の棚

1コースが「企業の本質」の着想を得たのは21歳の遊学中、アメリカの工場を見て回っていたときだった。論文の発表は1937年、ノーベル賞は1991年。アイデアから受賞まで54年かかっている

2『人月の神話』の原題は The Mythical Man-Month。「人月」——人数×月数で仕事量を測る考え方そのものが神話だ、というタイトルになっている

3ダンバー数は約150。人類学者ロビン・ダンバーが、霊長類の脳の大きさと群れの規模の関係から導いた「安定した関係を保てる人数の上限」。組織論でよく引かれるが、本文の「3人でやりたい」はその50分の1

4アダム・スミスが『国富論』(1776年)で挙げたピン工場の例では、一人だと1日20本も作れないが、工程を10人で分けると1日48,000本になるとされた。分業の利益は、こうして近代の前提になった

5「自分でやったほうが早い」を英語圏では "If you want it done right, do it yourself" と言う。19世紀のことわざ集にすでに載っていて、少なくとも200年は同じことが言われ続けている

6ブルックスはIBM System/360という、当時世界最大級のソフトウェア開発の責任者だった。『人月の神話』は成功譚ではなく、自分が失敗した理由の記録として書かれている

03

逆からの発想

  • 「少人数で回す」の逆 — あえて冗長に人を持つ。3人の取り分は大きいが、1人が倒れたら33%が止まる。効率の裏側にあるのは、脆さをどこまで許容するかという設計判断
  • 「AIに任せる」の逆 — まだ何も任せていない。本文で渡しているのは作業であって、判断は一つも渡していない。呪いの正体が「判断を手放せないこと」なら、対象が人からAIに変わっただけで構造は同じ
  • 「呪いが解けた」の逆 — 解けたのではなく、試されなくなった。任せられないことのコストは、任せる必要が消えたことで検証不能になった。証明されないまま温存された、とも言える
04

次の旅 — 読む・試す

  • ロナルド・コース「企業の本質」20ページほどの論文。なぜ会社があるのかを、90年前に取引費用で説明しきっている
  • ブルックス『人月の神話』人数で仕事量を測ることの誤りを、失敗の当事者が書いた古典
  • ロビン・ダンバー『友達の数は何人?』人が関係を保てる人数の上限を、脳の大きさから説明する
  • 自分の業務を「説明して待つ時間」だけで計ってみる実作業ではなく、依頼と確認と手戻りに何時間使っているかを1週間だけ記録する
  • いま人に振っている仕事を1つ選び、AIに同じ指示を出してみる速さではなく、指示の粒度がどれだけ違うかを見る実験
05

問いの連鎖

  1. 任せられないのは、他人が遅いからだ — と本文は言う
  2. 遅さの正体は作業ではなく、説明して待つ時間だった
  3. その時間がゼロになったなら、任せない理由も消える
  4. だが消えたのは「頼む相手」であって、「判断する人」ではない
  5. 判断だけが直列で残るなら、組織の最小単位は判断できる一人になる
  6. 問い — あなたが手放せないのは、作業ですか、それとも判断ですか

次に読む: スタンス表明が、出世していく。(スタッフ10名を全員業務委託にした話)
あわせて: 仕事が、遊びになった日。(AIは自分の増幅器でしかない)

少人数のまま、事業を伸ばす。

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