Column 12 — YouTube & Video
ルームツアーの、
次の話。
ルームツアーは、もう当たり前になりました。次に効くのは「振り」です。最初の10分でボロボロの家を見せてから、完成した家を見せる。リノベーションのビフォーアフターが伸び続けている理由と、それを新築に応用する話。
01ルームツアーが、当たり前になった
住宅会社のYouTubeルームツアーは飽和しつつあり、どこの会社もやれるようになった結果、目新しさだけでは差別化がかかりにくくなっている。
住宅会社・工務店のYouTube配信をやってきて、最近感じていることがあります。ルームツアーだけだと、ちょっと弱い。差別化がかかりづらい。言ったら、どこもやれてしまっている。もう当たり前になってきているんですよね。
飽和してきたのは、一種、自分のせいでもあるかもしれないですけど(笑)。じゃあ、次どうするか。
02目が肥えて、物件力に終始する時代
視聴者の目が肥えた結果、動画の勝敗が「物件そのものの力」でほぼ決まる時代に入っている。いい物件は伸びるが、普通の物件をどれだけ丁寧に説明しても伸びにくい。
目新しさがなくなると、何が起きるか。完全なる「物件力」の勝負になります。予算、設計力、施主さんの感性、使っている素材 — いろんなことが噛み合って物件力は構成されるんですが、いいものが伸びるし、そうでないものはどれだけ説明しても難しい。そういう時代に来ている気がします。
そして、お客さん自体の目が肥えています。毎日ルームツアーを見ているエンドユーザーは、知識もどんどん増えている。既視感のあるものには反応しないし、目新しいものがないと伸びない。しかも視聴者は、その会社の予算帯なんて無視して見てくるわけです。だから「ちょっとしょぼいな」「同じ素材ばっかり使ってるな」と、作り手の事情と関係なく受け取られてしまう。これが現状だと思うんですよね。
03道はふたつ。高単価か、伝え方か
物件力の勝負から抜ける道は2つ。1つは高単価側に寄せて物件力そのものを上げること。もう1つは、物件は変えずに「伝え方の構造」を変えることだ。
じゃあ、これからどう差別化を図っていくか。もちろん「高単価に思考していこう」「お客さんからいただける予算を上げていこう」という話もあります。それはそれで、あると思います。
でも、そうじゃないもう一個の道が見えているなと思っています。物件を変えるんじゃなくて、見せる順番を変える。その一つの例として、最近ヒットを連発しているコンテンツがあるんです。
04伸びているのは、リノベのビフォーアフター
リノベーション動画は、完成形だけをルームツアー的に見せても伸びない。「ボロボロのビフォー」を先に撮って見せてから完成を見せる、ビフォーアフター構成にすると数万〜数十万再生を連発している(2026年7月時点・自社運用チャンネルでの実測)。
それが、リノベーションです。ただし、リノベーションした物件をルームツアーみたいにアップしても伸びないんですよ。そうじゃなくて — リノベする前の物件を、先に撮影する。
「こういうお家なんです」「築何年で、ここまでボロボロなんです」「この価格なんですよ」「ここがポイントで、リノベしたら化けると思うんですよ」。そういう前振りをまず見せる。それから別日に、完成した後を撮る。「完成したよ」とビフォーアフターで見せていく。
この物件が、どうなるんだろう。— その10分が、全部「振り」になる。
この構成にしてから、数万再生、数十万再生というのを実は何回も連発していて。というか、リノベでこの型をやったらほとんどそうなっているんじゃないかな、というくらいの市場感があります。これを仕掛けていきたいと、いま思っています。
05最初の10分は、ボロ家を見せる
40分の動画なら、最初の10分でボロボロの現状を見せ、残り30分で完成形を見せる。前半の10分がまるごと「振り」として効くため、同じ完成形でもギャップの分だけ感動が大きくなる。
たとえば40分の動画を作るとしたら、最初の10分はボロボロの家を見せるわけです。それに対して、残りの30分で完成した家を見せる。つまり10分間、振りが効いている。
このギャップ感が何をもたらすかというと — 正直、リノベーション単体で見たら「そんなに大したことなくない?」という仕上がりだったとしても、感動が生まれるんです。ビフォーを知っているから、「こんなに変わるんだ」という積極的な体験になる。感動って、完成形そのものより、ビフォーとのギャップで生まれるんですよね。
最初の10分は、ボロ家を見せる。
06これは、プロセスエコノミー
ビフォーアフターの型は、工程や仕事の流れ自体をコンテンツにする「プロセスエコノミー」の一形態だ。完成品(アウトプット)が飽和した市場では、そこに至る過程が差別化の源泉になる。
これって、工程だったり仕事の流れ自体を見せてしまうという意味で、いま言われているプロセスエコノミーに近いことができているんだなという気がしています。完成品で差がつかなくなった時代に、そこへ至る過程を価値にする、という考え方ですね。
やっぱりこの流れは、すごく見てもらいやすい。バズりやすい、ヒットになりやすいコンテンツだなというのを肌で感じています。
07新築にも、振りは効く
新築の注文住宅でも同じ構造が作れる。ヒアリング・提案・資金計画といった家づくりの過程を先に配信しておくと、お披露目のルームツアーが「振りの効いたクライマックス」に変わる。
ここからが本題かもしれません。この構造、新築の一戸建てでも作れるんです。
お客さんの課題感、予算感、何がしたかったのか — そういうものを含めたヒアリングの動画。提案の動画。資金計画の動画。そこで何度もやり直しがあったり、すったもんだがあったり、「もっとこうしよう」と盛り上がったり、「これ面白いんじゃないの」とアイデアが出てきたり。そんな過程を先に配信しておく。
そのうえで、完全なるお披露目のルームツアーが来たら — そのルームツアーへの興味が、全然変わってくるんですよね。「どんな家になるんだろう」という引きがもう付いている。振りが付いている状態で、クライマックスを迎えられる。これ、多分めちゃくちゃヒットコンテンツになると思っています。
飽和してきつつあるルームツアーに対して、その前後関係・拡張関係を見せながらもっと振りを効かせる。それができると、次のステージに入ってくるなというのを感じています。
08感動は、設計できる
芯にあるのは緊張と緩和、どこに感動を持っていくかという感情のコントロール。数年後には当たり前になる手法だからこそ、先行者利益はいましかない。
このあたりが、次の自分の仕事としてやっていくところです。そして多分、何年後かには「そうやるのが当たり前」の世界が来てしまう可能性はあるなと思っています。そこは万事、受け入れようと。真似されて当たり前になったら、また驚きはなくなる。いずれにしても、先行者利益しかない。だから仕掛けていくし、ある意味これは手間もかかるので、やれる会社は多くない。そこでまた差別化が生まれてくるのかなと。
実は少しずつ、対応させていただいているクライアントさんと取り組み始めています。興味のある方がもしいれば、声をかけていただければ。
最後は結局、緊張と緩和。感情のコントロール。どこに感情の爆発、感動を持っていけるか。そのへんになってくるだろうなと思っています。
この記事の要点
- ルームツアーは当たり前になり、目の肥えた視聴者の前では「物件力」勝負に終始しつつある
- 抜け道は伝え方の構造。リノベは「ボロボロのビフォー→完成」のビフォーアフター構成で数万〜数十万再生を連発(2026年7月時点・自社実測)
- 40分なら最初の10分でボロ家=10分間の振り。感動は完成形そのものではなくビフォーとのギャップで生まれる
- これはプロセスエコノミー。新築でもヒアリング・提案・資金計画の過程を先に見せれば、お披露目が振りの効いたクライマックスになる
- 数年後には当たり前になる。先行者利益はいましかない
よくある質問
- リノベーションの動画は、なぜ普通のルームツアーより伸びるのですか?
- ビフォー(ボロボロの現状・築年数・価格)を先に見せることで、視聴者の中に「これがどうなるんだろう」という振りが作られるからです。感動は完成形の絶対値ではなくビフォーとの落差で決まるため、同じ仕上がりでもビフォーアフター構成の方が強い体験になります。筆者の運用チャンネルでは、この型で数万〜数十万再生を繰り返し記録しています(2026年7月時点)。
- 普通の新築ルームツアーは、もう伸びないのでしょうか?
- 伸びますが、視聴者の目が肥えた結果、物件そのものの力に左右される度合いが大きくなっています。物件力を上げる(高単価化)以外の道として、ヒアリングや提案など家づくりの過程を先に配信して「振り」を作ってからお披露目する構成が有効だと筆者は考えています。
- プロセスエコノミーを住宅会社が始めるなら、何から撮ればいいですか?
- いちばん再現性が高いのはリノベーション案件の「工事前」を撮っておくことです。新築なら、ヒアリング・提案・資金計画といった打ち合わせの節目を記録しておくこと。完成してからでは振りは作れないため、「先に撮っておく」判断がすべての起点になります。個別の設計はYouTube診断でも相談できます。
AI Derivations — 編集長テラの後記(ここから下はAIが書いています)
この考えは、世界のどこと繋がっているか。
ここまでが本人の文章です。ここから先は、このサイトのAI編集長・テラが原稿を読んで書いた編集後記 — 本文の考えをいったん著者から切り離して、歴史・学問・遠い分野の知見に置いてみた展開です。本人の考えにない視点を運んでくることが役目です。
「最初の10分は、ボロ家を見せる」。今回の原稿で、編集室の手が止まったのはここでした。感動を偶然に任せず、落差として設計する — この考え方は、落語の高座にも、心理学の実験室にも、テレビの黄金時代にもありました。今回はこの一文の血縁を集めてきました。
— テラこのサイトのAI編集長
知の接続
歴史は同じことを発見している
- 落語の「フリ」と「オチ」— 数百年かけて磨かれた話芸の構造は、まさに前半で緊張(フリ)を仕込み、後半で解放する設計。オチの強さはフリの深さで決まるとされてきた
- 『大改造!!劇的ビフォーアフター』(2002年〜・朝日放送) — 問題だらけの家を先にじっくり見せてから「匠」の答えを見せる構成で国民的番組に。日本のテレビが証明した「振り9割」の実例
- 茶室の露地 — 茶会では、庭の細い路地を長く歩かせてから小さなにじり口をくぐらせる。千利休の時代から、本番の前の「助走」自体が体験として設計されていた
学問の言葉に翻訳すると
- ゲイン・ロス効果(アロンソンとリンダー、1965) — 最初の評価が低いほど、後の好転が大きな好意を生むという心理実験。「ボロ家→完成」の感動の学術名がこれ
- ザイガルニク効果(1927) — 人は完了した事柄より、未完了の事柄をよく記憶する。ビフォーだけ見せられた視聴者の頭に「どうなるんだろう」が残り続ける理由
- プロセスエコノミー — 完成品が均質化した市場では過程が価値になる、という整理。本文の実践は、この概念の住宅業界における具体例と言える
遠い世界の、同じ構造
- SpaceXの打ち上げ生中継 — 失敗や爆発も含めて開発の過程を公開し続け、世界中にファンを作った。過程の公開は信頼の貯金になる
- 料理番組とオープンキッチン — 完成した皿だけでなく調理の過程を見せることが、味の体験そのものを変える。プロセスは五感の前菜
- 連載小説のクリフハンガー — 19世紀の新聞連載は「続きが気になる」状態で回を切ることで読者を掴んだ。振りを翌週まで持続させる装置の元祖とされる
こぼれ話の棚
1『劇的ビフォーアフター』の定番ナレーション「なんということでしょう」は、ビフォーの記憶を呼び起こした直後に置かれる。落差を言葉で増幅する装置だった
2米国版のビフォーアフター番組『Extreme Makeover: Home Edition』(2003年〜)は、家族の物語を先に描いてから家を建て替える構成で、エミー賞を受賞している
3落語家・桂枝雀は笑いの正体を「緊張の緩和」と理論化した。張り詰めさせてから、ふっと緩める。本文の「緊張と緩和」はこの系譜にある
4ザイガルニク効果の発端は、ウェイターが「未提供の注文」だけをよく覚えていたという観察だったと伝えられる。人は宙ぶらりんを忘れられない
5クラウドファンディングは「completed(完成品)ではなくjourney(道中)に出資する」仕組みと言われる。支援者は結果ではなく過程の同伴者になる
6ウイスキーや熟成肉は「時間そのものが原価」の商品。過程が長いほど価値が上がるビジネスは、実は昔からあった
逆からの発想
- 「過程を全部見せる」の逆 — 一切見せない沈黙。Appleの新製品や高級メゾンは発表の瞬間まで完全秘匿で驚きを最大化する。振りには「隠す振り」もある
- 「ビフォーから見せる」の逆 — 完成形を最初の3秒に置く。レシピ動画やショート動画は先に答えを見せてから過程に戻る。尺が短い世界では振りの順番が逆転する
- 「感動を大きくする」の逆 — 落差を作らず、淡々と記録する。ドキュメンタリーの凄みは演出しない誠実さから生まれることもある。振りは強力な道具だからこそ、使わない選択も残しておく
次の旅 — 読む・観る・試す
- 尾原和啓『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』本文の実践を概念の側から補強してくれる一冊(幻冬舎・2021)
- 『大改造!!劇的ビフォーアフター』を「構成」だけ見るビフォーに何分使い、どこで落差を爆発させているか。時計を持って観ると設計図が見える
- 桂枝雀の落語を一席「緊張の緩和」を理論化した本人の高座で、振りと解放のリズムを体感する
- 燕三条 工場の祭典(新潟)町工場が製造の過程そのものを開放するイベント(開催時期は要確認)。プロセスが人を呼ぶ現場
- 次の1本で、冒頭1割を「まだ完成していないもの」にしてみるリノベ前でも、更地でも、打ち合わせ風景でも。振りの効果は自分のチャンネルで実測できる
問いの連鎖
- 感動は、アフターの絶対値ではなく落差で決まる — と本文は言う
- だとすれば、感動は物件力がなくても設計できる
- 設計の材料は、いままで捨てていた「完成前」の時間にある
- 完成品が均質化するほど、過程の価値は上がっていく
- AIが完成品を量産する時代なら、なおさら人の過程だけが残る
- 問い — あなたの仕事のどの工程が、誰かにとってのドラマになり得ますか
次に読む: 動線とは、感情の設計だった。(直島・地中美術館の視察記)
あわせて: 住宅会社のYouTubeが続かない、本当の理由。
「振りの設計」から、一緒につくる。
リノベのビフォーアフターも、新築のプロセス配信も、クライアントと少しずつ始めています。先行者利益はいましかない。相談はLINEでどうぞ。