PROJECT DOCUMENT — COMPLETED 2026.03
「高台の家」ができるまで。
一棟の家は、どんな時間をたどって建つのか。
2025年4月の雑談から、2026年3月の鍵のお渡しまで。実際の一棟を、日記のかたちで公開します。
事務所に、ご夫婦が来た。
「土地も、言葉も、まだ何もないんですけど」。それがこの一棟の最初の言葉でした。お茶を淹れて、2時間。出てきたのは「雨の日が、わりと好き」という意外な一言。ここから全部が始まります。

安すぎる土地には、理由がある。
設計者が同行して6件目。坂の上に、相場よりずっと安い土地がありました。理由は傾斜。でも図面を頭の中で3回建てて、確信しました。この欠点は、設計で消せる。むしろ、町を見下ろす特等席になる。
「雨の日が好き」を、設計の言葉に翻訳する。
好きな旅先、好きな時間帯、休日の過ごし方。3回目の打ち合わせで、この家の背骨が決まりました。雨音が聞こえる軒、濡れない縁側、雨の夜がいちばん美しい照明計画。要望書には絶対に書かれない要望が、いちばん大事です。

プランが出た日、奥さまが泣いた。
初回提案の日はいつも緊張します。土地の傾斜をそのまま活かした断面と、「雨の夜のためのカウンター」の一枚。「私たちより、私たちの暮らしを分かってる」と言ってもらえました。この仕事のいちばんのご褒美です。
3Dで、雨の夜を先に体験する。
模型とCGスタディで、光の当たり方を検証します。行灯の高さは3案、カウンターの窓は5案つくりました。迷った案は、全部お見せするのが流儀です。選ぶのは、住む人だから。

図面と、性能と、金額を締め切る。
楽しい話の前に、耐震等級3(許容応力度計算)・断熱・気密・空調計画・総額を全部確定。ここから先、金額は増えません。この約束があるから、以降の仕様選びは純粋に楽しい時間になります。
図面を描いた本人が、現場に立つ。
上棟の日は、ご家族も現場に。気密測定はC値0.3が出ました(全棟実測・出なければ是正)。納まりの判断はその場で設計者が下します。伝言ゲームをしないのが、設計施工一括にこだわる理由です。
インテリアは、障子と行灯で。
家具・照明・カーテンまで、図面と同じ手でコーディネート。この家は障子のやわらかい光と、床を照らす行灯だけにしました。家が主役ではなく、雨の夜が主役だからです。

完成。鍵と一緒に、家の履歴書を。
雨の夜を待って、ルームツアーを撮りました。町の灯りを見下ろすカウンターは、想像のとおり、いや、それ以上でした。図面・仕様・検査記録をまとめた「家の履歴書」を鍵と一緒にお渡しして、この一棟のドキュメントはいったんおしまい。ここからは、暮らしの時間です。
