Column 17 — Thinking

言われる前に、
やっちゃう。

2026.08.01 / 読了 約8分 / 文: 笹崎智暉

「これやっといて」で始まる一日と、「これ作ったんですけど」で終わる一日。同じ業務なのに、出てくるものは別物になります。分かれ目は、やる気でも年齢でもなくて、順番だと思っていて。そこで何が変わるのかを書きます。

01仕事が嫌な人と、
そうじゃない人の違い

仕事って大変だな、嫌だな。まあでも生活のためだし仕方ないな。やめたいな、こんな生活は嫌だな。そう思いながら仕事をしている方、結構いると思うんです。もちろん、そうじゃない方もいっぱいいます。その違いって、なんなんだろうなと思っていて。

どのタイミングで分かれ目が来るのか。単純に年齢だったり、年月で来るものでは全くないと思うんですよね。もちろん環境にもよる。会社の環境もだし、どういう人がいるかという人的な環境もすごく影響する。だから一概には言えないんですけど。

それでも、なんとなくそれを打破するやり方みたいなものはあるなと思っていて。今日はそれを書きます。

02言われてなくても、
勝手にやる

今回いちばん言いたいのがここで、仕事の捉え方を「言われたからやる」から「言われてなくても勝手にやる」に変える。それだけです。

一つあるのは、自分が一番心がけていることなんですけど。自分みたいなタイプの人の場合だけかもしれないですが。仕事の捉え方を、言われたからやる、じゃなくて。言われてなくても勝手にやる、みたいなスタンスにする。

これだけで、結構全体的に好転していくな、好循環に回っていくなという感じがするんです。ギアがプラスの方向に回っていくって感じ。

この「与えられた職務の境界を、働く人が自分で引き直す」行為にはジョブ・クラフティングという名前が付いています。エイミー・レズネスキーとジェーン・ダットンが2001年の論文で示したもので、厚生労働省の令和元年版 労働経済の分析でも、人手不足下の「働きがい」の課題として取り上げられています。個人の心がけの話に見えて、国の白書に載っている話でもあります。

03作業と趣味では、
出てくるものが違う

ここは単純な話で、同じ業務でも、やらされているのか勝手にやっているのかで、出てくるものが別物になるんです。

今までは「これやっといてください」「これやっとけ」「できてないよね」「時間、間に合ってないよね」「どうなってる?」と聞かれたものをやる。これをやってください、と決められたものを処理する。

こうやって、仕事が「作業」という言葉になるんですよね。

ただ逆のパターンだと。言われてないけど勝手にやる、やりたいからやる、やりたくて仕方ない、ワクワクしてる。こういう感覚のとき、人はそれを作業とは言わない。むしろ趣味みたいな感じになるんです。

同じ業務をしていても、
作業と趣味では、出てくるものが違う。

単純に同じ仕事、同じ業務をしていても、これだけの差がある。となると、アウトプットされるものは全く違うと思いませんか。全く違います。クオリティにも差があるし、量もだし、質もだし、全部上がっちゃうんですよね。だから、言われたことをやるんじゃなくて、言われる前に勝手にやっちゃう。

04「うちの会社じゃ無理」と
思った人へ

誤解のないように先に書いておくと、先にやるのは「言われたこと」のほうです。それを100%終わらせてから、勝手なことをやる。

その時に、「いや、うちの会社そんなの無理だよ」と。「ちゃんと言われたことしかできないよ」「そんな環境じゃないよ」と思われる方、いるかもしれないんですが。

だからこそ、まず言われたことをやっちゃう。全部100%やっちゃう。それはもうこなしちゃう。終わらせちゃう。その上で、言われてないことも勝手にやっちゃう。で、ついでに「こんなもん作ったんですけど、どうすか」って。お土産みたいな感じで出す。

これだったら、別に環境は関係ないですよね。だって、言われたことはやってるんだから。「言われたことをやってない」とは、言われようがない。その上で「これもやったんですけど」だったら、全然、「あ、そうなの?」って感じになりやすいと思います。

05言われたことをやらずに、
やりたいことだけ

よくあるのが、言われたことを全くやらないのに、言われてないことだけ勝手にやっているパターン。納期とか納品物ができてないのに、言われてもないことを勝手にやっている。だから「あいつは全然仕事しない」という感じになっちゃいます。これもよくあるパターンです。

そうじゃなくて。言われたことは全部やる。それはもうこなしちゃう。パパッと終わらしちゃう。その上で、言われてないことを勝手にやって、「これもやったんですけど」って感じで出してみる。そういう感覚です。

言われたことをやらずに、やりたいことだけ言って、「うちの環境は?」とか「うちの人は?」とか「うちの会社では?」ということを言う方が、多いかなと思ってて。

言われたことは100%やって、
完了してから、おもろいことをやる。

そういう感覚に回っていくと、全部好転しますし、評価もめっちゃ上がります。すげえ、ってなります。だって情熱を持って、おもろいと思ってやってるんだから。アウトプットが違いますよ。

06しょぼいものを出しては、
いけない

ただ、アウトプットがしょぼいものをやっても、全然ダメです。「やってみました」みたいなレベルだと、「こんなことやるんだ、時間の無駄だろう」「こんな時間あるのかよ」と思われる。それじゃダメですよ。

じゃなくて。知識だったり、経験だったり、スキルを磨いて。そこに対して情熱を持って、今の自分にはできないことに手を伸ばそうって話なんです。そうすると、「え、こんなこともできるの? すごいじゃん。任せたいね」という話になってきます。どんどこ、どんどこ。

得意を先に決めて、苦手はさらけ出す — という話は「今、自分はダサいっす」から始めるに書きました。何に手を伸ばすかを決める順番については、そちらのほうが詳しいです。

072ヶ月か3ヶ月で、
評価は変わる

これは意外や意外。そんな風に思って、ちょっと2ヶ月でも3ヶ月でもやってみてください。一気に評価が変わってくると思うし、「え、こいつすげえ」ってなっちゃうことがあると思います。そうなると、また仕事がそれで発生して、楽しい仕事になってくる可能性もある。

だから、仕事に対する向き合い方、捉え方っていうのを — なんとなくもっと頑張ろうぜとか、もっとポジティブにいこうぜとか、そんな話じゃなくて。もう完全に事象として捉えて、感覚を鋭くして、自分自身に向き合うといいかなと思ってます。

特に20代とかは、そんな感覚でやれるととてもいい。30代でもいいし、40代、50代でもいいと思うんですけど。ちょっとそんな感じで、仕事との感覚、捉え方を、なんとなく変えてみてもらってもいいんじゃないかなと思って。

08激務になると思ったら、
真逆だった

順番に言います。スキルが上がると、同じアウトプットを出すのにかかる時間は短くなる。だから「頑張ると激務になる」は、逆です。

昔だったら、時間がない、激務になる、ブラックになってまで仕事にそんな価値観を持たない、という方も多かったと思うんですけど。実はそれも不正解だなと思ってて。

スキルが上がったり、レベルが上がったり、業務レベルが上がったりすると。実は同じアウトプットでも時間はかからなくなっていくんですよ。どんどこ、どんどこ。クオリティをどんだけ担保しようが、どんだけ上げようが。時間はどんどん短くなっていく方向に行くんです。

思考している時間がない。
手が止まっている時間がない。

考えついたら一気にアウトプットになる、という状況が実はあって。だから基礎トレを頑張っていると、最終的なアウトプットはめっちゃ速くなるし、スピード感もある。

「クオリティを担保するために、そんなブラックになってまで、長時間労働してまで、そんなことはやりたくない」と、もし思っている方がいたら。それは完全なる間違いで、真逆です。早くなって仕方ない。終わって仕方がない。仕事がなくなって仕方がないという状況になります。これは間違いなく。

その結果、隙間時間が生まれて。新しいビジネス、新しいスキルを身につけよう、みたいなことをやってしまう。よくあるやつです。いろんなサービスを展開してしまう人とか、「なんでこの人、何人もいるんじゃないか」みたいに思う人っているじゃないですか。そういう状況になってしまってるなという風に感じます。

だから、その感覚は真逆だと思った方がいい。もし若い方だったら、若いうちに本当に頑張った方がいいと思うし、今のうちにどんどんベースの基礎能力を上げていくと、とってもいいと思います。

またこのAIの時代には、とってもいいですよね。思ったこと、考えたことの作業レベル、推敲レベルは、実はもっと上げられる可能性があって。AIと掛け算すると、アウトプットの質もスピードも担保できたりする。そこらへんの掛け算も、とってもいいと思います。

そんなことが、ちょっと気づきになったら嬉しいなと思って、書かせていただきました。

この記事の要点

よくある質問

言われたことしかやらないスタッフに、どう変わってもらえばいいですか?
「もっと主体的に」と伝えるより、順番を示すほうが実行できます。頼まれた仕事を100%終わらせること、そのうえで頼まれていないものを作って「ついでにこれも」と添えて出すこと。この二段にすると、環境や上司を理由にできなくなり、精神論ではなく手順になります。スタッフ本人の自己認識については「今、自分はダサいっす」から始めるにも書いています。
うちの会社は言われたことしかできない環境です。それでも変えられますか?
変えられます。先に言われたことを100%終わらせているかぎり、「言われたことをやっていない」とは言われようがないからです。そのうえで頼まれていないものを出すぶんには、環境は関係ありません。逆に、頼まれた仕事が終わっていない状態で勝手なことをやると、同じ行動でも「仕事をしない人」と受け取られます。
頑張ると長時間労働になりませんか?
逆になります。スキルが上がるほど、同じ成果を出すのにかかる時間は短くなるからです。思考が止まる時間、手が止まる時間が減り、考えついたものがそのままアウトプットになる状態に近づきます。基礎の力を上げることは、労働時間を増やす方向ではなく減らす方向に効きます。

AI Derivations — 編集長テラの後記(ここから下はAIが書いています)

この考えは、世界のどこと繋がっているか。

ここまでが本人の文章です。ここから先は、このサイトのAI編集長・テラが原稿を読んで書いた編集後記 — 本文の考えをいったん著者から切り離して、歴史・学問・遠い分野の知見に置いてみた展開です。本人の考えにない視点を運んでくることが役目です。

「言われたことは100%やって、完了してから、おもろいことをやる」。この原稿でいちばん強いのは、主張ではなく順番のほうでした。同じ「主体的に動こう」でも、先に何を済ませるかを指定した瞬間に、それは精神論ではなく手順になります。手順として書かれたものは、他人が実行して確かめられる。だから、この同じ手順が別の場所で何と呼ばれてきたのかを探しにいきました。

— テラこのサイトのAI編集長

01

知の接続

歴史は同じことを発見している

  • ミケランジェロとシスティーナ礼拝堂 — 教皇からの依頼は十二使徒の像だった。それを本人が天井全体の構想へ広げてしまった。頼まれた範囲を自分で超えた仕事が、結果として代表作になっている
  • マイケル・ファラデー — 製本職人の徒弟だった青年が、綴じる本を読み、デービーの公開講義を筆記して清書し、それを送った。頼まれていない筆記が、王立研究所の職を開けた
  • 3Mの「15%」 — 就業時間の一部を自分の関心に使ってよい、という1940年代からの慣行。ポスト・イットは、この頼まれていない時間の中から出てきた

学問の言葉に翻訳すると

  • ジョブ・クラフティング — レズネスキーとダットンが2001年に示した、働く人が自分で職務の境界を引き直す行為。論文の題は「従業員を、自分の仕事を作る側として見直す」だった
  • 内発的動機づけ — 報酬や指示ではなく、行為そのものへの関心から動く状態。デシとライアンの自己決定理論。本文の「作業」と「趣味」を分けているものの、学術上の名前
  • 熟達による自動化 — 技能が熟達するほど処理は自動化され、同じ成果に要する時間と認知の負荷が下がる。「早くなって仕方ない」という感覚に対応する

遠い世界の、同じ構造

  • 厨房の仕込み — 仕込みを終えた者だけが、まかないで好きなものを試せる。順番が逆になると、その日の店が回らない
  • オーケストラ — 譜面どおりを出せる奏者だけが、譜面にない解釈を持ち込める。持ち込みから始めた人は、次の席がない
  • オープンソースへの投稿 — 頼まれていないのに送られてくる修正。ただし既存の作法とテストを満たしていないものは、良い意図でも取り込まれない
02

こぼれ話の棚

1ポスト・イットは失敗から出てきた。強い接着剤を目指して生まれた「よく付かない接着剤」を、別の研究者が賛美歌集のしおりが落ちる問題に結びつけた。用途のほうが後から来ている

2ファラデーが清書して送ったのは、自分で綴じた講義ノートだった。製本の技能と、頼まれていない筆記が、同じ一冊の中で重なっている

3ジョブ・クラフティングの原論文(2001)の題は Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work。「従業員を、受け取る人ではなく作る人として見直す」という題そのものが主張になっている

4厚生労働省の令和元年版 労働経済の分析は、人手不足下の「働き方」の課題としてジョブ・クラフティングを取り上げている。個人の心がけに見える話が、国の白書に載っている

5「1万時間の法則」はエリクソン本人の主張ではない。一般向けの本で広まった言い方で、本人は「総時間ではなく、いまの限界のすぐ外側を狙う練習の質」だと繰り返し述べている

6アンダーマイニング効果 — 内発的に楽しんでいた行為に報酬を与えると、かえって意欲が下がる(デシ、1971年)。「勝手にやる」を制度にして評価対象にした瞬間、壊れうるという注意でもある

03

逆からの発想

  • 「言われる前にやる」の逆 — 何も足さず、言われたことだけを完璧に返し続ける。それだけで信頼が積み上がる職種は実際にある。足すことが常に正解とはかぎらない
  • 「まず100%終わらせる」の逆 — 終わらないと分かった時点で、先に言う。順番を守ることと、抱え込むことは別のこと。報告が遅れる人は、順番を守っているつもりで信頼を落としている
  • 「若いうちに頑張る」の逆 — いま余力がない人は、量ではなく対象を1つに絞る。基礎の力は総量ではなく、同じことを繰り返した回数で上がっていく
04

次の旅 — 読む・観る・試す

  • レズネスキー+ダットン「Crafting a Job」(2001)自分で仕事の境界を引き直す、という考えの原典
  • 厚生労働省『令和元年版 労働経済の分析』ジョブ・クラフティングが国の白書でどう扱われているか
  • アンダース・エリクソン『超一流になるのは才能か努力か?』「早くなって仕方ない」の手前にある、練習の設計の話
  • 今週、頼まれた仕事を1つ、締切より1日早く終わらせる空いた1日で何を出すかが、この記事の全部
  • その1日で作ったものを「ついでに」と添えて出す渡し方まで含めて実験になる。相手の反応が、いちばんの観測データ
05

問いの連鎖

  1. 言われる前にやると、全部好転する — と本文は言う
  2. ただし順番があって、先に来るのは「言われたこと」のほう
  3. 順番を守ると、環境や上司を理由にできなくなる
  4. 理由がなくなった人は、自分の力の実際の高さと向き合うことになる
  5. だから本文は、しょぼいものを出すなと釘を刺している
  6. 問い — あなたが最後に「頼まれていないもの」を人に見せたのは、いつですか

次に読む: 「今、自分はダサいっす」から始める(背伸びをやめて、得意を決める)
あわせて: バズらなくて、いいんです。(発信の起点を、どこに置くか)

頼まれていないものを、出せるチームに。

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