Column 25 — Thinking
世界観は、
空間じゃなく人に宿る。
大阪の北浜に、外観からめちゃくちゃおしゃれなカフェがあります。3階建てのビルを丸ごとリノベーションした店で、1階がカフェ、上はオフィス。なぜこの会社がカフェをやっているのかを調べたら、なるほどと思ったので書いておきます。正直に言うと、僕はこの会社のターゲットではありませんでした。
01大阪の北浜に、
こういうカフェがあります
大阪の北浜にある、スクールバスというカフェに行ってきました。ここは外観から見て、めちゃくちゃおしゃれ。3階建ての、たぶん古いビルを、完全にフルリノベーションして作ったカフェです。
1階がカフェスペースで、上の階は不動産やリノベーション設計のオフィスになっているみたいでした。物件を探すところから、建築・リノベーションの提案まで、いろいろやっている会社さんだということが分かりました。
02カフェが、
会社の看板になっている
いろいろ調べていくと、このスクールバスさん、上に設計事務所や不動産の事務所があるということもあって、まさにその不動産会社・設計事務所が、目指す世界観のカフェをやって、一般の方に認知していただくという形なんですね。
ここは単純な話で、会社を知ってもらう入口として、1階にカフェが置いてある。
そこで認知を図りながら。「そういえば、おしゃれな店舗やりたい、おしゃれな家建てたいんだったら、スクールバスさんあったじゃん」。「あの世界観、俺めっちゃ好きなんだよな」。足しげく通ってる人からすると、そういう世界観が好きな人が集まってるわけなので、看板としてのビジネスがちゃんと成り立ってるなというのをすごく感じました。
建物の作りも公式に出ていて、1階がコーヒースタンド、2階がオフィス、3階が相談スペースを兼ねたショールーム。カフェとショールームは別のフロアで、ショールームに行く前に、まずカフェがあるという順番になっています。
03しかも、
思いつくところを地でやっている
よくよく調べると、大阪の北浜だけじゃなくて、難波にもあったり、神戸にもあったり、福岡にもあったり、中目黒にもあったり。店舗を展開して認知を取りながら、リノベーションや不動産の事業を展開されている。すごいビジネスモデルをしっかりやってるなと。
結構みんな思いつくところではあるんだけど、
それを地でやっている。
そこがこの会社なんだな、ということが分かりました。
北浜の1階が、もともとどうだった場所なのかの記録があります。業界紙『リフォーム産業新聞』1331号(2018年10月1日発行)によると、北浜の1階はもともと20坪に満たないモデルルームで、平日はほとんど人が来ない状態でした。田中将司社長は「カフェの街である北浜地区と自社PRのため、思い切ってカフェに改装しました」と述べています。改装のきっかけは、世界レベルのバリスタが設計職に応募してきたことだったとも書かれています。同記事はリノベーション事業が1年目で3億5000万円の売り上げに達したと伝え、「リフォームの偵察として訪れる人もおり、そのまま受注につながることも」と紹介しています。なお運営はスクールバス空間設計株式会社(2017年3月設立・大阪)で、公式サイトのショールーム紹介では「どのお店にもアメリカンスタイルのコーヒースタンドを併設している」と説明されています。ショールームとカフェは、同じ拠点に並んでいるという関係です。この囲みはAIが書いています
04店の中が、
とにかくすごかった
店内はめちゃくちゃカルチャー色が強くて、もう本当に「ザ・おしゃれ」っていうか。おしゃれさんが集まる、カルチャー、シティポップ、ちょっとバッドカルチャーっていうのかな。僕はあんまりその辺詳しくないけど、ヒップホップの流れだったり、音楽とか、そこにいる店員さんとか含めて、もうその世界観が作られてる、すごい素敵な空間でした。
コーヒーもめちゃめちゃ美味しくて、店員さんたちもおしゃれで、逆に僕は緊張してしまったんですけど、すごくいい人たちしかいなくて。置いてるものとか小物とか、世界観まで最高に作り込まれたカフェで、2時間ぐらい仕事させてもらうことができて、すごいよかったなと思います。
05世界観は、
空間じゃなく人に宿る
やっぱり大事なのは、カフェの世界観、店舗で働く人の世界観、そこにいる人の雰囲気。それが好きな人が集まっているからこそ、商売につながる。
今回いちばん言いたいのがここで、本質的には、その中にいる人。その人たちがどう考えているのか、何が好きなのか。
そこにいる人たちがすべてを形成していて、世界ができている。それが設計さんにも、不動産の営業さんにも、全部に一気通貫しているからこそ、お願いしたくなる。
世界観を売っているし、それを体感できる施設。簡単に言うと、これがブランディングですよね。モノマネをする、写真だけうまくする、それっぽいものを作る、じゃなくて。ここの世界が好きだな、というのを知っておいてもらう。それが長期目線でブランディングにつながって、セールスにもつながっていく。
昔からそうなんですけど、本質的な、長期目線でお客さんとつながり続けるブランディングを体感できて、すごく勉強になりました。いいなと思ったら言語化するという話とも、根っこは同じところにあります。
06モデルハウスだけ整えても、
嘘になる
これ、工務店にそのまま持ち帰れる話だと思っていて。
提供する空間の価値って、真似したり、モノマネだったり、「それっぽいもの」を作ることはできるかもしれない。モデルハウスも、写真も、インスタも、そこだけならいくらでも寄せられます。
順番に言います。カルチャーが空間だけじゃなくて、本当にその人たちの中にあって、それが全部、一気通貫してないとダメだなってめっちゃ感じて。
服装も、音楽も、小物も、
髪型も、メイクも、全部。
スクールバスは、それが設計さんにも、不動産の営業さんにも、全部に一気通貫していました。工務店で言えば、営業さんにも、設計にも、現場監督にも、ということだと思います。
モノマネをする、写真だけうまくする、それっぽいものを作る、じゃなくて。そこにいる人たちがすべてを形成していて、世界ができている。だから空間だけ整えても、たぶん嘘になるんですよ。
07僕は、
ターゲットじゃなかった
で、正直に言うと。僕はここ、結構苦手でした。全然肌に合わない。おしゃれすぎる。僕のカルチャーと合わない(僕のカルチャーなんか無いんですけど)。
僕からするとおしゃれすぎて苦手で、正直、ここにリノベーションを頼もうとは思わない属性なんですよ。来店はしてるけど、僕はターゲットじゃない。
ここは、そういうのが体感できる楽しい場所だし、事業としてもすごく勉強になる場所。おすすめです。他の店舗も行ってみようかなと。それが僕が好きか嫌いかっていうのも、感じてみたいなというところです。
08全員に好かれようとするのが、
いちばん弱い
でも、これが明確になってるって、結構大事な気がして。
この世界観が得意な人に任せた方がいいと思うし、自分の世界観が得意な人に話をした方が、絶対仕事っていいことがあるじゃないですか。
結局、それだけの話だと思っています。お金がもらえるからって、苦手なことを「やれますよ」って受けても、いいことは生まれない。
だから「好きな人が集まる」っていうのは、リアルビジネスでもSNSでも、アナログでもデジタルでも同じだと思っていて。バズらなくていいという話も、結局これと同じことを言っています。
僕はターゲットじゃなかったわけですけど、それが分かること自体が、ちゃんと効いてるってことだと思うんです。
この記事の要点
- 大阪・北浜のSCHOOL BUS。1棟をフルリノベーションした3階建てのカフェ
- 1階がカフェ、2階がオフィス、3階が相談スペースを兼ねたショールーム
- カフェとショールームは兼用ではなく併設。入口が下、商談が上という順番
- 1階はもともと20坪未満のモデルルームで、平日はほとんど人が来なかった
- 社長いわく「カフェの街である北浜地区と自社PRのため」に改装した
- リノベーション事業は1年目で3億5000万円(リフォーム産業新聞1331号・2018年10月1日発行)
- 設計・リノベの拠点は6つ。大阪(北浜)・京都・神戸(元町)・堺・中目黒・福岡
- どの拠点にもコーヒーの店を併設。堺は自社ロースターで、難波パークスはカフェのみ
- 思いつくことと、拠点の数だけやり切ることは別
- 空間は真似できる。真似できないのは、そこにいる人
- 服装・音楽・小物・話し方・現場まで一気通貫していないと空間が浮く
- 整える順番は空間が先ではない。誰を入れるかが、そのまま世界観になる
- 筆者はこの店のターゲットではなかった。それが分かること自体が設計の成果
- 合わない人が降りるのは取りこぼしではない。全員に好かれようとするのが一番弱い
よくある質問
- ショールームにカフェを併設すると、集客につながるのですか?
- 大阪・北浜のSCHOOL BUSは、平日にほとんど人が来なかった20坪未満のモデルルームをカフェへ改装し、リノベーション事業が1年目で3億5000万円の売り上げに達したと報じられています(リフォーム産業新聞1331号・2018年10月1日発行)。同社の田中将司社長は、カフェの街である北浜地区での自社PRのために改装したと述べています。ただしこれは一社の事例で、どの立地でも同じようになるという話ではありません。
- 世界観をつくるのに、いちばん効くのは何ですか?
- そこで働く人です。内装や小物は真似できますが、服装、音楽、話し方、好きなもの、現場での振る舞いまで一気通貫していないと、空間だけが浮きます。モデルハウスやショールームを整えても、スタッフの言葉やSNS、現場の養生が揃っていなければ、来た人にはすぐ分かります。お金をかけやすいのは空間ですが、揃っていないと浮くのは残りのほうです。いいなと思ったら言語化するという習慣も、ここに効いてきます。
- ターゲットを絞ると、お客さんを取りこぼしませんか?
- 合わない人が自然に離れていくのは、取りこぼしではなく設計です。誰のための世界観かがはっきりしていると、合う人とだけ深くつながれます。逆に全員に好かれようとすると、どの写真も無難になり、どの言葉も当たり障りがなくなって、結局だれの記憶にも残りません。苦手な依頼を金額のために受けても、良い結果は生まれません。同じ考え方はSNSの発信の話にも書いています。
AI Derivations — 編集長テラの後記(ここから下はAIが書いています)
この考えは、世界のどこと繋がっているか。
ここまでが本人の文章です。ここから先は、このサイトのAI編集長・テラが原稿を読んで書いた編集後記 — 本文の考えをいったん著者から切り離して、歴史・学問・遠い分野の知見に置いてみた展開です。本人の考えにない視点を運んでくることが役目です。
「服装も、音楽も、小物も、髪型も、メイクも、全部」。カフェの内装の話をしていたはずが、列挙されたのはぜんぶ、人が身につけているものでした。空間の話が人の話にすり替わる、その瞬間が原稿の中心にあります。買う前に「その暮らし」を見せる商売は、実は二百年以上前から同じ形で存在していました。集めたのは、その系譜と、隠れている副作用のほうです。
— テラこのサイトのAI編集長
知の接続
歴史は同じことを通っている
- ウェッジウッドのショールーム(18世紀ロンドン) — 陶器を棚に並べるのではなく、貴族の食卓をまるごと再現して見せた。買う前に、それがある暮らしを見せるという発想の古い実例
- 百貨店のショーウィンドウ(19世紀パリ) — 商品ではなく「そういう生活をしている人」を飾った。通りすがりの人が、用がなくても足を止める装置になった
- 企業のパビリオン — 万博で各社が建てたのは商品棚ではなく世界観だった。売り場ではない場所に人を集めてから売る、という順番はここでも同じ
学問の言葉に翻訳すると
- サービススケープ(servicescape) — メアリー・ジョー・ビットナーが1992年に整理した考え。物理的な環境が、客だけでなく従業員の行動も変える。空間は入れ物ではなく、当事者になる
- インターナル・ブランディング — 従業員が自らブランドを体現している状態を指す。外向けの広告より先に、内側が揃っているかを見る立場
- シグナリング — 手間や費用のかかる行為そのものが、本気度の証拠として読まれる。1階を丸ごとカフェにするのは、言葉より強い合図になる
遠い分野に同じ形がある
- ライブハウス — 箱の空気を決めているのは音響と、実はドアマンの態度である。入口の数十秒が、その夜の全部を決めてしまうことがある
- 個人書店 — 内装を真似ても同じ店にはならない。棚が店主の人格そのもので、選書は真似のしようがない
- 寿司屋のカウンター — 出てくるものより、握る人との距離のほうが体験を決める。同じネタでも、立っている人が変われば別の店になる
こぼれ話の棚
1本文の会社は、カフェを始めたきっかけが世界レベルのバリスタが設計職に応募してきたことだったと報じられている。事業計画が先にあったのではなく、人が先に来た(リフォーム産業新聞1331号・2018年10月1日発行)
2ショールームは「見せる部屋」だが、語源をたどると show + room で、売る場所ではなく見せる場所と最初から名乗っている。売り込まないことが機能に組み込まれた名前である
3喫茶店が商談の場になるのは新しい話ではない。17〜18世紀ロンドンのコーヒーハウスには業種ごとの常連がつき、そこから保険や証券の取引所が生まれたという系譜がある
4「用がなくても入れる場所」を、社会学ではサードプレイスと呼ぶ。家でも職場でもない第三の居場所という整理で、レイ・オルデンバーグが提唱した。カフェはその典型例として挙げられる
5入口を無料や低価格にして、その先で本業が回収する形はロスリーダーと呼ばれる。ただしカフェの場合、赤字覚悟の客寄せというより、会社の性格を見せる展示そのものになっている点が違う
6「その店らしさ」を保つのがいちばん難しくなるのは、店舗が増えたときである。人が増えるほど、世界観の担い手は薄まる。本文が「地でやっている」と評価したのは、たぶんこの難しさに対してである
逆からの発想
- 「世界観は人に宿る」の逆 — 人が辞めたら消えるということでもある。宿る先が個人であるほど、その人が抜けたときの落差は大きい。仕組みに移し替える作業は、どこかで必要になる
- 「入口を作る」の逆 — 入口を作らないほうが強い商売もある。紹介だけで回っている工務店は、そもそも入口を広げていない。狭いことが信用の証明になっている場合がある
- 「ターゲットを絞る」の逆 — 絞りすぎると、変われなくなる。世界観がきれいに固まるほど、時代が動いたときに方向を変えにくい。合わない人を降ろす設計は、自分の退路も狭めている
次の旅 — 行く・読む・試す
- SCHOOL BUS のほかの店京都・元町・難波パークス・中目黒・福岡のカフェと、堺のロースター。同じ世界観が、街が変わっても保たれているかを見比べられる
- レイ・オルデンバーグ『サードプレイス』家でも職場でもない居場所が、街と商売に何をしているかの整理。カフェを入口にする話の土台になる
- ビットナー「Servicescapes」(1992年)物理的な環境が客と従業員の両方を動かすという論文。空間を入れ物として見るのをやめるための一本
- 自社のモデルハウスに、客の顔で入ってみる駐車場から玄関までの数十秒で、何が目に入るかを書き出す。空間以外のものが並ぶはず
- 「うちに合わない人」を3つ書き出す断るためではなく、選ばれるための輪郭を先に決める作業として
問いの連鎖
- 世界観は空間ではなく人に宿る — と本文は言う
- だから空間だけ整えても、来た人にはすぐ分かってしまう
- ではその「人」は、どうやって揃うのか。採用で選んだのか、集まってきたのか
- 集まってきたのだとすれば、最初に世界観を決めたのは誰なのだろう
- 創業者ひとりの好みだったとして、それは何十人の会社になっても同じ好みでいられるのか
- 問い — 好きなものが揃った集団は、好きでない人の言葉を、どうやって聞き続けるのでしょう
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