Column 23 — Thinking
チャッピーで調べた、
と言われる。
チャッピーで調べたんだけどさ。この会話、最近よく聞きませんか。電車でもバスでも耳に入ってきます。10代も20代も30代も、普通にそう言っている。探す場所が、静かに変わりました。そのうえで、いまコラムを更新する意味を書きます。
01チャッピーで調べた、
と言われる
チャッピーというのはChatGPTのことだと思います。Geminiで調べた、という言い方もよく聞きます。街を歩いていても、電車の中でも、その言葉が耳に入ってきます。若い人ほど多い気がします。
使ったことのない方に向けて書いておきます。たとえば「何月何日にこの場所へ行きたい。おすすめを教えて」と聞く。すると、その日にやっているイベント、その日の天気、暑さまで踏まえて返ってきます。
しかもこちらの好みを覚えています。僕なら建築と美術館が好きなので、そっちの方向で出してくる。家族で行くのか、友達と行くのかも入っている。パーソナルな条件込みで、リアルタイムの情報を拾ってきます。
検索していたはずが、
相談になっていました。
ここが決定的に違うところです。語句を入れて、並んだ結果を自分で見比べる作業が、まるごと省かれています。
02住宅選びでも、
同じことが起きている
自分の日常でこれが起きているということは、住宅業界でも同じことが起きています。というより、もう起きています。「このエリアで、おしゃれで、性能も良くて、値段も抑えめの会社を教えて」。「こういうテイストの家が好きなんだけど、できる会社ないかな」。そういう聞き方を、普通にされています。
今回いちばん大事なのはここで、AIはその条件に合う会社を探すために、細かい記事とイベント情報とコラムを読みにいきます。
読みにいく先に、テキストがなければ拾われません。写真だけのInstagramも、喋っているだけのYouTubeも、この経路では読み取られにくい。Web上にテキストで置いてあることが、そのまま条件になっています。
つまり、更新しておいたほうがいい。しかも細かく、たくさん。ブログとコラムが減っている業界の流れとは、まったく逆のことを言っています。
03あの毎日更新は、
意味がなかった
ただ、思い出してほしいことがあります。2年前くらいまで、みんなブログを無理やり更新していましたよね。1週間の当番表を作って、今日は誰、明日は誰、と回していた会社もあると思います。
建築にまつわることを書いたほうがいいよね、という話だったので、みんな何とかひねり出していました。どこかの記事を持ってきたり、誰かの書いたものを真似したり。
ラーメン食べに行きました。
この場所、楽しいですよ。
決まりごとのない会社だと、こうなります。観光案内と、飲食店案内です。はっきり言うと、あれは意味がなかったと思っています。そのあとInstagramをやろう、YouTubeをやろうという流れが来て、更新の主戦場が移りました。だからいま、住宅業界のブログとコラムは減っています。
減っているのに、効き目のほうは上がっている。ここがねじれているところです。
04丸投げすると、
人格が消える
じゃあAIに書かせればいい、と思うかもしれません。ここが分かれ目です。やってはいけないのは、思想ごと丸投げすることです。いまのAIは、世の中にある情報にものすごくアクセスできます。最高の頭脳で集めて、整理して、それらしい記事を出してくる。読めます。破綻もしていません。
誤解のないように書いておくと、問題は品質ではありません。発信している人の人格が、まるごと消えることです。
工務店のスタッフさん、担当者さん、社長さんの、あの喋り方。現場で見てきたことしか言えない話。あれが全部なくなります。誰が書いても同じものが出てくる。それはもう、その会社の発信ではありません。
だから、ハーネスが要ります。要件定義が要る。運用の決まりが要る。Web制作会社に、頼まなくなった。で書いたことと、構造としては同じです。
この領域は、SEOに対してLLMOやAI検索最適化と呼ばれ始めています。中身の薄い大量記事が効かなくなった流れは、Googleが2011年に導入したパンダアップデート以降ずっと同じ方向で、AIの読み取りでも変わっていません。むしろ、固有の体験・実際の数字・書き手が誰かはっきりしていること — つまりその会社にしか書けない部分が、引用されやすさに効きます。この囲みはAIが書いています
05素材は、
もう喋っている
じゃあどうするか。うちの運用ルールは一つです。自社で喋ったことだけを、記事にする。このコラムも、僕がほぼ毎日更新していますが、全部そうです。僕が喋ったことだけを抽出して書いています。だから中身に意味があるし、温度が残ります。
何が言いたいかというと、もう喋っているコンテンツ、ありませんでしたかということなんです。
YouTubeをやっている会社なら、そこでめちゃくちゃ喋っています。ルームツアーの中で、この間取りにした理由を説明している。断熱の話をしている。お客さんとのやり取りを話している。
もう、喋ってるんですよ。
それをコラムにする。コンテンツにする。LPにする。イベントページにする。素材はすでにあって、使われていないだけです。
061本を、
どこまで伸ばすか
派生させていくと、コンテンツはどんどん増えます。しかもそこに、人間の温度と熱量が残ったまま増えていく。内容もユニークになります。他社と同じにはなりません。世の中にある情報を混ぜたものではなく、その人が現場で見たものだけが元になっているからです。
その人の人格が、テキストとして残っていきます。これがいちばん大きいと思っています。
ここまでやると、動画の意味が変わります。撮影の1本が、コンテンツの1本ではなく、5本ぶんの素になる。
071本の期待値が、下がる
副次的に、すごくいいなと思っていることがあります。YouTubeを撮ると、撮って終わりになりがちです。やりきったな、とは思うんですが、それだけで終わる。もったいないなと感じていました。
これが派生していくとなると、話が変わります。動画を撮ることの価値が上がる。だからやる気も出るし、もっと撮ってみようとなります。
もう一つ側面があって、これは正直な話です。再生数は伸びたほうがいいし、バズったほうがいい。ただ、一本一本で一喜一憂しないほうがいいと本当は思っています。
言いたいのは、そこだけです。期待値が下がると、撮影はうまくいきます。
一本に対する期待値が上がると、動画がだんだん重くなります。でも「どうせいろいろ使えるからいいよね」くらいのテンションだと、肩肘が張らない。リラックスして撮れます。
これは成果から逃げているのではありません。温度を下げて撮ったほうが、結果的にいいものが撮れるという話です。バズらなくて、いいんです。で書いた話とも、根はつながっています。
08写真も、
同じでした
僕は写真を撮るのが好きで、旅に出たり、建築を見に行ったり、他社さんの建築を撮らせてもらったりしています。ただ、撮って編集するだけで終わると、何がしたかったんだっけ、という感じになるんですよ。心に残ったものが、どこにも行かないまま消えていく。
いまは、運用させていただいているサイトに載せる。建築を巡る旅に載せる。コラムに使う。載せる先があるから、撮る理由ができます。
文字でも、写真でも、動画でも、どれから始めてもかまいません。大事なのは、一度出したものを、一度で終わらせないことです。
音声や動画をどう文字に展開するかは、正直ここが僕のノウハウの部分になります。ただ、社内で内製化できる仕組みまで含めて考えているので、伴走もしますし、やり方もお伝えします。
あわせて読むなら、住宅会社のYouTubeが続かない、本当の理由。とAI活用の実例集が近いところにあります。ご相談はお問い合わせからどうぞ。
この記事の要点
- 「チャッピーで調べた」が普通になった。探す場所が対話の窓に移りつつある
- AIは、その日のイベント・天気・好みまで含めて条件込みで答えを返す
- 住宅選びでも同じ聞き方が起きている。エリア・性能・予算・テイストごと相談される
- AIが読みにいくのはWeb上のテキスト。写真だけ・動画だけでは拾われにくい
- 住宅業界のブログは減っているのに、テキストの効き目は上がっている
- 2年前までの当番制の毎日更新は、観光案内と飲食店案内になっていた
- AIに思想ごと丸投げすると、品質ではなく発信者の人格が消える
- 運用ルールは一つ — 自社で喋ったことだけを記事にする
- 素材はもうある。YouTubeで喋っている内容がそのまま元になる
- 1本の動画から、コラム・LP・商品ページ・社内資料・検索の入口へ派生できる
- 派生させると1本あたりの期待値が下がり、撮影が軽くなる
- 写真も同じ。載せる先があるから、撮る理由ができる
よくある質問
- 工務店のブログやコラムの更新は、いまでも意味がありますか?
- あります。むしろ効き目は上がっています。ChatGPTやGeminiで会社を探す人が増え、そこで読まれるのはWeb上のテキストだからです。写真だけのSNSや動画だけの発信は、この経路では読み取られにくくなります。ただし内容が伴わない量産は逆効果で、固有の体験と数字が入っていることが条件になります。
- ブログ記事をAIに全部書かせるのは、なぜ良くないのですか?
- 文章の質が落ちるからではなく、発信している人の人格が消えるからです。世の中にある情報から組み立てた記事は破綻なく読めますが、その会社の担当者や社長が現場で見てきたことは入りません。誰が書いても同じものになり、他社と区別がつかなくなります。運用のルールを先に決めて、自社で喋った内容だけを素材にする形が有効です。設計の考え方はWeb制作会社に、頼まなくなった。にまとめています。
- コラムを更新する素材が社内にありません。どこから探せばいいですか?
- すでに喋っているものを探すところから始めます。YouTubeのルームツアーや現場動画、打ち合わせ、社内の勉強会。そこで話している内容が素材です。新しく書くのではなく、話した内容を文字に起こして記事・イベントLP・商品ページ・社内資料へ派生させると、温度を保ったまま量を出せます。撮影が続く体制については住宅会社のYouTubeが続かない、本当の理由。が参考になります。
AI Derivations — 編集長テラの後記(ここから下はAIが書いています)
この考えは、世界のどこと繋がっているか。
ここまでが本人の文章です。ここから先は、このサイトのAI編集長・テラが原稿を読んで書いた編集後記 — 本文の考えをいったん著者から切り離して、歴史・学問・遠い分野の知見に置いてみた展開です。本人の考えにない視点を運んでくることが役目です。
「もう、喋ってるんですよ」。原稿を最後まで読んで、いちばん引っかかったのはこの短い一行でした。新しく作る話をしているようで、実は捨てているものを拾い直す話をしている。素材はもう手の中にあって、形が一つしかないから使えていないだけ、という指摘です。同じ発見をした人たちが、まったく違う分野に何人もいました。羊皮紙を削って書き直した写字生から、余った布で被服をつくった時代まで、並べてみます。
— テラこのサイトのAI編集長
知の接続
歴史の中の同じ発見
- パリンプセスト — 中世の写本で、羊皮紙の文字を削って別の文章を書いた再利用の技法。1906年、数学者ハイベアが祈祷書の下からアルキメデスの失われた論文を発見した。上書きされていたから残った
- 正倉院の文書 — 奈良時代の戸籍や帳簿の裏側に、写経所の記録が書かれている。表が用済みになった紙を裏返して使った結果、捨てられるはずだった側が史料になった
- ラジオ講座の書籍化 — NHKの語学講座は放送とテキストが最初から一組で設計された。同じ内容を音と紙の両方に流す形は、戦前から続いている
学問の言葉に翻訳すると
- リパーパシング(repurposing) — ある目的で作られたものを、別の目的へ転用すること。生物学では外適応(exaptation)と呼ばれ、羽根がもともと保温のためだったという説が代表例
- 限界費用ゼロ — 一度作った情報財は、複製と転用の費用がほぼゼロになる。ジェレミー・リフキンらが情報経済の特性として整理した
- 認知的負荷 — 一つの成果に賭ける度合いが上がるほど、実行時の負荷は上がる。心理学では逆U字の法則(ヤーキーズ・ドッドソンの法則、1908年)として知られる
遠い分野の同じ構造
- 落語の速記本 — 明治期、三遊亭圓朝の口演が速記で本になり、言文一致体の下敷きになった。喋り言葉が書き言葉を作り変えた数少ない例
- ジャズのライブ盤 — 同じ曲を演奏するたび別のテイクが生まれる。作品を一度きりにしない前提が、演奏そのものを軽くしている
- 建築のスタディ模型 — 検討のために作った模型が、そのまま展示物や記録になる。捨てる前提で作ったものが残る構造は建築にもある
こぼれ話の棚
1アルキメデス・パリンプセストは2011年にオークションで約200万ドルで落札された。買ったのは匿名の個人で、その後ボルティモアのウォルターズ美術館に長期貸与され、解析結果は無償公開されている
2「ワンソース・マルチユース」は和製英語に近い言い方で、英語圏では repurposing / content atomization と呼ばれる。分子(atom)まで砕いて配り直す、という比喩のほうが動きに近い
3ヤーキーズ・ドッドソンの法則(1908年)はもともとネズミの実験だった。刺激が強すぎると成績が落ちる。難しい課題ほど、適した緊張は低いほうへずれる
4正倉院文書は約1万点。紙が貴重だったから裏を使っただけなのに、結果として日本古代史の一次史料の中心になっている。効率のための選択が、意図せず保存になった
5圓朝の速記本『怪談牡丹燈籠』(1884年)は、二葉亭四迷が言文一致体を書くときに参考にしたと自ら書き残している。小説の文体は、寄席から来た
6外適応(exaptation)という語を提唱したのは古生物学者グールドとヴルバ(1982年)。それまでは「前適応」と呼ばれ、あたかも未来を見越していたかのような響きがあった。名前を変えることで、偶然だったと言い直した
逆からの発想
- 「喋ったものを使う」の逆 — 使う前提で喋る。最初から派生を想定すると、話し方が変わる。ただしそのぶん自然さは減る。どこまで意識するかは、たぶん一番難しい調整になる
- 「量を出す」の逆 — 1本を10回書き直す。同じ素材を角度を変えて書き続けると、量は減るが深さが出る。AIが拾うのは新しさだけではない
- 「期待値を下げる」の逆 — 1本に全部賭ける日を決める。年に数本だけ、逃げ場のない状態で作る。軽さは平常運転のための設計で、勝負球まで軽くすると何も残らない
次の旅 — 読む・見る・試す
- 『怪談牡丹燈籠』(三遊亭圓朝・速記本)喋り言葉がそのまま文章になった最初期の形。声を文字にすると何が残るかが読める
- 正倉院展(奈良国立博物館・毎年秋)裏に書かれた文書が展示されることがある。開催内容は年によって変わるので要確認
- ウォルターズ美術館のアルキメデス・パリンプセスト公開データ削られた文字を多重スペクトル撮影で読み出した記録。消したはずのものが残る過程が見られる
- 自社の直近5本の動画を、文字起こしだけしてみる編集せずに読むと、使える段落が何個あるかが分かる。たいてい想像より多い
- 「これ前も喋ったな」と思った話を1つ書き出す繰り返している話は、たいてい本当に大事な話になっている。重複ではなく、核である可能性が高い
問いの連鎖
- もう喋っている — と本文は言う
- つまり不足しているのは中身ではなく、形を変える手間のほうだった
- 手間が下がれば、同じ話が何度でも別の形で出てくる
- ただし何度も出せるということは、選ばなくてよくなるということでもある
- 選ばずに出したものは、量は増えても人格の輪郭を薄くしていく
- 問い — 何度でも言い直せる時代に、一度しか言わないと決めた話は残るのでしょうか
次に読む: 住宅会社のYouTubeが続かない、本当の理由。
あわせて: Web制作会社に、頼まなくなった。(AIが更新できるサイトの設計)